A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

最も美味しい料理(3)エチオピア料理

「最も美味しい料理」を考えるシリーズ、アラブ料理編に続いて、エチオピア料理を思い出しながら書いてみます。アフリカの中でもエチオピアは、ヨーロッパ列強の占領を受けず、独自の文化を守り抜くことができた稀有な国です。

料理もそう。一般的にアフリカ料理は何かの肉を煮ただけ・焼いただけというものが多い中、エチオピア料理の手の込んだレシピはまさに世界レベル。もっと世の中に知られてほしいと思う一方、やはり問題はインジェラ。

インジェラはイネ科の植物テフ (世界最小の穀物) から作る酸味のあるパンケーキ (大判のクレープ) で、多くのエチオピア人が最も好む主食です。お米やメイズは、エチオピア人にとってはどこか物足りない、もっと言えば貧乏くさいのだそうです。

ちなみにテフは、牛やロバに踏ませて脱穀するので、最後に拾い集めて袋詰めする際、1割くらいは畑の土がまざってしまうそう。そのため、テフこそが「その土地の味」なんだとも言われていました (たぶん半分揶揄かもしれませんが)。

個人的には、インジェラは職場の食堂で毎日お昼に食べ続けたので、もう好き嫌いというより、エチオピア料理はインジェラがあって当然という認識です。ただ、その酸味と、灰色でプツプツ穴の開いた見た目が、一見さんにはとっつきにくいことは確かでしょう。白っぽいインジェラだと、酸味も少なくかなり食べやすいです。

まずインジェラが好きかどうかでエチオピア料理に対する評価はガラッと変わるでしょうが、自分はインジェラ含め多彩な料理の数々は本当にどれも美味しいと思います。自分にとって「最も美味しい料理」は、エチオピアからかもしれません。

トリッパワット

過去記事「エチオピアのグルメ」に、エチオピアで自分が食べた料理のうち代表的なものを載せました。ワット (肉や豆のシチュー的な料理) はどれも美味しかったです。とくにエチオピア料理の最上位 (お客さんに対するおもてなし料理No.1) と言われるドロワットは、その名にふさわしい美味しさでした。

そんな中、個人的に最も美味しいと思ったワットは、「クラウンホテル」のトリッパワット。牛のトリッパ (胃袋) をトマトとタマネギ、エチオピア風スパイスで煮込んだピリ辛の一品。もしヨーロッパで出されたら。普通にイタリア料理だと思うでしょう (ローマ風トリッパとか)。

アジスアベバでも他のお店ではほとんど見なかったので、これが食べたくなったらクラウンホテルに出かけていました。これだけはもう一度食べたいな。

エチオピアは月・火・木が普通の日で、水・金がツォムの日です (ツォム=肉断ち、肉・卵・乳製品を食べない)。職場の食堂もツォムの曜日はお肉料理がなく、豆のワット (シュロワット) を食べていました。きっともう数百年、いや2000年くらいこの習慣を続けているのでしょうから、野菜料理・豆料理も充実するわけです。ツォムの日に食べる盛り合わせ (ベイアイネット) はとてもにぎやかで、お肉が食べられない残念感は皆無でした。

肉メニューの盛り合わせだと、必ずドロワットが真ん中に鎮座します。

クトゥフォ(生)

エチオピア人は生肉をご馳走として食べますが、自分はさすがに肉を塊から切り出しそのまま食べることは避けていました。肉そのものの寄生虫というより、肉をさばく調理場環境がひどいからです。数少ないですが、自分が生肉を食べた時は、案の定、ひどくお腹を壊しました。

その上、肉を一口大にカットする際、ナイフの切れ味が悪く何度もキコキコやっていたら、左手の人差し指にプスッと刃先を刺してしまい、その日の夜から高熱にうなされるという最悪な体験をしました。(⇒コチラ)

一方で、ひき肉を使ったクトゥフォ (バターとスパイスが効いたエチオピア風ユッケ) は好きでよく食べていました。肉は生の方が限りなく美味しいわけですから、本当はクトゥフォも生 (トゥレ) を食べたかったのですが、よほど信頼できるお店でなければ危険です。結局日和って、少し火を通したもの (レブレブ) を食べることが多かったです。

南部州のアワサに行った時は、メニュー上はレブレブだったのですが、出てきたクトゥフォはほとんどトゥレだったので (下の写真)、若干躊躇しつつ、生肉の風味をしっかり味わうことができました。あれは本当に美味しかったです。

ヤバグトゥブス

エチオピア人の大好物のひとつ、表面をカリッと焼いた牛肉のトゥブスは、ちょっと脂っこくて自分はあまり好きではありませんでした。食べるなら断然「ヤバグトゥブス」です。ヤギの肋の骨付き肉を小さめにカットして炒めた料理で、特製のコンロで出されます。

もともとヒツジ/ヤギのお肉が大好きなので、立ち上るケベ (エチオピアンバター) の香りと相まって、これは本当に美味しいと思いました。ただし、エチオピア料理はあれもこれも美味しいので、回数はそんなに食べられなかったかな。もっと食べておけばよかったと後悔している料理のひとつです。

コーヒーとマキアート

ブンナベット (コーヒーハウス=茶室) やカリオモン (コーヒーセレモニー=茶道) という伝統文化を持つエチオピアですが、アジスアベバで一番美味しいコーヒーが飲めるカフェといったら、なんといっても「トモカコーヒー (Tomoca Coffee)」です。

ここで飲むストレートなエチオピアコーヒーは、自分のコーヒー観を変えてしまいました。コクのあるダークな香りと、キリッとしてなおかつまろやかな酸味は、これが本当のコーヒーなんだと、そう確信するほどの美味しさでした。

こうしてエチオピアコーヒー (ブラックコーヒー) の美味しさに目覚めた後、ある場所で衝撃的なコーヒーに出会います。それはエチオピア大統領官邸の庭で、センターの研修生を引き連れ井戸を掘っていた時のこと。

休憩時間に官邸スタッフが出してくれたコーヒーが、文字通り目の覚めるようなキリッとしたエチオピアコーヒーで、あまりの美味しさに思わず天を仰いでしまったほどでした。口の中に広がるふくよかな余韻は、生涯忘れられない味です。

官邸でコーヒーを出してもらったのはこの一度きりでしたが、その後約1年半、エチオピア滞在中にもう一度このレベルのコーヒーが飲みたいとあちこち試してみましたが、その夢はついぞ叶いませんでした。

豆が良く、淹れ方が上手く、そしてブラックライオンを目の前にして飲んだあの特別な状況も込みで、人生で一番美味しいコーヒーだったんだなと思います。あの瞬間の再現はきっともう無理なんだろうと考えると、そこはかとない悲しみが。

一方、アジスアベバでも地方でも、町で日常的に飲むコーヒーといえば、これはもうほとんどマキアートでした。濃いコーヒーと甘いミルクが絶妙の組み合わせで、どこで飲んでもまずいということがない飲み物でした。小さめのガラスコップに入れるのがお決まりで、量が少ないためいつも「もう少し飲みたい」と思わされました。

エチオピアを去ってから、いろんな国でマキアートを飲みましたが、エチオピアくらい美味しいマキアートには未だ出会っていません。思い出補正があるとしても、やっぱりエチオピアの方が美味しかったよなと、いつも不思議な気持ちになります。何か秘密があったんでしょうか。

そもそも見た目 (コーヒーとミルクの比率) からして同じものには出会っていないので、エチオピアのマキアートはやはりエチオピア独自のものだったのかもしれません。なお、自分でエスプレッソを作りこの比率で牛乳に入れてみても、どうしても同じ味にはならないんですよね。ミルクもきっと違うんだろうなあ。

エチオピア料理以外

エチオピア料理以外にも、エチオピア滞在中はパスタ、ピザ、中華料理などを食べていました。アジスアベバにあるゴルフ場のレストランは、ピザが美味しかったです。町中で食べるカルボナーラは、クリームを使わず卵をからめてありましたが、火をよく通しているのでだいたいどれもボソボソしていました。

当時はこれが完全に間違ったやり方だと思っていましたが、よくよく調べるとイタリアでもカルボナーラにクリームは使わないようで (熱々パスタに卵黄のみを軽く混ぜる程度)、実は意外と本場直伝だったんだなと。技術が伴っていないだけで。

イースター前のツォム期間 (2~4月の2ヶ月間) にエチオピア北部をまわっていた時、ゴンダールのホテルで食べたスパゲティミートソースは、数日ぶりの肉料理だったため、それはそれは美味しかったのですが、途中で急速に熱が冷める出来事がありました。ことの顛末はコチラ (過去記事内の「ゴンダールこぼれ話」参照)。

もうひとつパスタの話ですが、地方出張中、小さな食堂に入り、隣のテーブルでお客さんが食べていたスパゲティナポリタンぽいものを指差し「あれをください」と注文したところ、実際に来たものは赤唐辛子がまぶされた激辛スパゲティでした。うーん、別世界。。

中華料理については、自分はエチオピアで初めて、「中国人が中国人のために作った中華料理」を食べた気がします。麻婆豆腐にしてもスパイスの使い方とかあまりに本格的すぎて、美味しいんだかそうじゃないんだか、よくわからず食べていました。

日本から中国籍のスタッフが出張で来た際、新しくできた中華料理屋に連れて行ったところ、その人も料理が美味しいのかどうかよくわからないと首を傾げていましたが、中国のある地方の料理に似ているので本格的という点においてはそのとおりとも言っていました。中華料理といってもいろいろあるんですね。

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エチオピア料理はわりとすんなり候補が決まりました。インドネシアやタイにも強敵が多いので、最終的に上位に食い込めるのか、今のところまだまだ考えがまとまっていません。