A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

エチオピアの怪しい葉っぱ

エチオピアの伝統的な嗜好品である「チャット」は、噛んでその成分を摂取すると覚醒作用がある植物です。エチオピアでは古くから栽培、使用されており、文化や社会に深く根付いてきました。

自分がエチオピアに住んでいたのはもう20年ほど前のこと。当時はチャット栽培が経済的にも大きな意味を持ち、マーケットでの売買や実際に使用しているエチオピア人を、そこかしこで見かけました。

当時のことを書いた過去記事を再録しますが、輸出状況はもうまったく異なります。「近年は世界的にコーヒー価格が安くなっており」などと書いてありますが、20年前は確かにそんな状況でした。現在のコーヒー価格の高騰からは隔世の感が。

輸出統計については、過去記事のあとに最新のものを載せます。現在はやはりコーヒーが圧倒的です。なお、情報ソースはいろいろあるので、数字はだいたいのところです。では、まず過去記事からどうぞ。

チャットは麻薬?

チャットとは?
被子植物門 双子葉植物綱 離弁花亜綱 ニシキギ目 ニシキギ科 アラビアチャ、またはアラビアチャノキ (Catha edulis)。イエメンではカート (Qat, Khat)、エチオピアではチャット (Chat)。チャットの葉を噛むと軽い覚醒作用があり、またおしゃべりになります。

エチオピアではその効能が人々に広く支持され、友人との談笑時や夜間の眠気覚ましなどに多用されています。特にハラール近郊アウォダイのチャットはよく効くとのことで、他の産地のものよりも高い値段で取引きされています。

以前は、エチオピアといえばコーヒーが一番の換金作物でしたが、近年は世界的にコーヒー価格が安くなっており、コーヒー畑をチャットに転作する農家が後をたちません。1997年から2002年の対COMESA平均年間輸出額は5億1,471万ブル (65億円) ですが、そのうち57%はチャットが稼ぎ出したものです。

チャットの主な輸出先はジブチ (81%)、エジプト (11.3%)、ケニヤ (4.2%)で、この3ヶ国で全体の97.2%を占めます。統計表にあった輸出金額を単純に輸出量で割ると、チャット1kg=750円、コーヒー1kg=180円、採油用種子1kg=65円、果物・野菜1kg=26円、穀類1kg=22円、砂糖1kg=20円と、やはりチャットは「儲かる作物」だと言えます。

その効果は?
中東諸国など、チャットを麻薬同等品として持ち込み禁止にしている国が多数あります。しかし麻薬という言葉から強烈な覚醒作用あるいは幻覚作用を期待していると、まったく肩すかしを喰らうことになります。

使い方としては、まず枝から若葉を何枚も取り外し、口中に放り込みます。猿の頬袋のように葉を頬にどんどんためながら、じっくり噛んで少しずつエキスを摂取していきます。

味はかなり渋いので、砂糖やピーナッツを一緒に食べる人もいますが、そうするとあまりうまく頬にためておくことができない (葉を飲んでしまう) ので、普通は葉っぱだけのようです。胃が荒れるので、なるべくエキスだけ。

チャットの効果といっても、これはある程度慣れが必要。噛み始めてしばらくたつと、少し頭がポーッとなってきます。

ほんのりと顔が熱くなってきて、少し脈が速くなります。これが効いてきた証拠で、だんだんと陽気でおしゃべりになっていくようです。

ただ、初めて噛んだ人はたいてい、「これが効いているということなの?」などと思わず口をついて出るくらいですから、その効果は推して知るべしです。

お酒を飲んでからチャットを噛むと効かないと言われていますが、お酒にくらべたらほとんど効果はないに等しいでしょう。

しかし、チャットを噛んでだらだらととりとめのない会話を楽しむことは、エチオピアの人々にとってはとても大切な時間なのだそうです。経験を積んで、慣れればもっと楽しいのかもしれません。

チャットを噛んで数時間は頭がさえたりおしゃべりに花が咲いたりしますが、きっとその日の夜は眠れないでしょう。噛む量にもよりますが、チャットの眠気覚まし効果はかなり強力。

そのため長距離トラックの運転手はチャットを片手に運転するのが当たり前になっており、限界まで眠らずに運転することから、結局はよく交通事故を起こしています。

エンジン性能が優れているいすゞのトラックは、エチオピアの国内運輸に多大な貢献をしていますが、多くの運転手がチャットを噛み、そしてあちこちで事故を起こします。

そのため、いすゞのトラックが走っているのを見るとみんな、「アルカイダが来た」と冗談を言います。エチオピア人と一緒にいる時いすゞのトラックを見たらすかさずアルカイダと言ってみましょう。ウケること間違いなし。

チャットを噛んだあとは、しばらくすると頭痛におそわれることもあります。また、男性はあちらの方が極めて鈍感になり、ほとんど役に立たなくなってしまうそうです。

逆に女性は敏感になるとのことですが、それは男性の側から聞いた意見なので、真相はわかりません。さすがに誰か当人に聞くわけにもいかず、この点は最後まで未確認でした。

ただ、チャットはこれだけエチオピア社会に深く浸透しているわけですから、きっと人々を惹きつけてやまない何か素晴らしい効能があるのでしょう。さすがに「眠気が飛ぶ」だけではね。

もちろん、チャットは社会的に好ましくないと主張する人々もたくさんいます。覚醒作用云々は別にして、チャットによって消費されるお金と時間が、大きな経済的損失を招いているからです。まあそれを言うなら、お酒の方がひどいですけどね。

チャットあれこれ
インターネットのレポートによれば、チャットに含まれる phenylpropanolamines (PPAs) という物質群・カチンとノレフェドリンに、精子の受精能力を高める働きがあるそうです。

それでイエメン人やエチオピア人は子だくさんなのかな、とか思ったり。(※注:イエメンでは同じものが「カート」と呼ばれ広く嗜好されています)

チャットといえば生の葉を噛むだけですが、南米のマテ茶のように加工品にはできないのでしょうか。換金作物として考えるなら今後はそういった研究も必要かと思います。

それにしても、南部州のシダマ (スタバでも売られているシダモコーヒーの産地) で、コーヒー畑の一角をつぶしてチャットに植え替えてあったのを見た時は驚きました。本当に、チャットって儲かるんですね。

(過去記事ここまで)

* * * 

注意1
日本の外務省HPにはチャットについて次のように記載されています。
・違法薬物等
違法薬物の所持、使用、輸入等は禁止されており、違反者は厳しく罰せられます。なお、エチオピアには、チャット (カート) という植物を咬む風習があります。特に祭事などで人が集まったときに嗜好品のように使用を薦められることがありますが、この植物には麻薬成分が含まれており、エチオピアを含む一部の国を除いて、違法あるいは危険薬物に指定されています。薦められた物が何かよく判らないときは、不用意に使用しないようご注意ください。

注意2
過去記事では対COMESA (東・南部アフリカ市場共同体) の輸出に占めるチャットの割合にフォーカスしましたが、当時からコーヒーは全世界に向けて輸出されており、トータルでは今も昔もやはりコーヒーがもっとも大きな富を生む農産物です。この点、誤解を生むような記事になっていたかもしれません。

注意3
フェニルプロパノールアミン(Phenylpropanolamine, PPA)は、かつて市販の風邪薬やダイエット薬に使用されていた成分で、鼻づまりの緩和や食欲抑制効果があるとされていました。しかし、脳卒中や高血圧などの健康リスクとの関連が指摘され、現在では多くの国で販売が制限または禁止されています。

最新統計
コーヒーとチャットの輸出量・輸出金額をわかりやすくひとつの図で示した統計グラフは見つけることができませんでした。なので、2020年までの輸出量比較グラフと、以降の輸出金額比較 (テキスト) を参考までに。

2019年から2024年までのコーヒーとチャットの輸出金額 (米ドル)、コーヒーはUSDA (アメリカ合衆国農務省)、チャットはNBE (エチオピア国立銀行) から、AIが収集した情報です。チャットはここ5年で急速に輸出額が落ち込んでいます。逆にコーヒーの伸びは右肩上がり。近年のコーヒー価格高騰が多大な利益をもたらしているのでしょう。もしかしたらチャット畑をつぶして、再びコーヒーに植え替えているのかもしれません。

・2019/2020:(コ) 8.21億$、(チ) 4.30億$
・2020/2021:(コ) 11.38億$、(チ) 4.00億$
・2021/2022:(コ) 13.40億$、(チ) 3.91億$
・2022/2023:(コ) 14.30億$、(チ) 2.47億$
・2023/2024:(コ) 17.00億$、(チ) 1.38億$

写真は当時、エチオピア西部に行った際、ある村で見たコーヒー豆選別作業の風景。繁忙期は村総出でやっているとのことでした。