A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

10月1日はコーヒーの日

本日、10月1日はコーヒーの日だそうです。ということで、これまでコーヒーについて書いてきた過去記事からあれこれピックアップ。

コーヒー発見の伝説

昔、アラビア半島南イエメン沿岸地方の丘の上に、イスラム神秘主義者たちが住む修道院がありました。ある日、山羊たちが一晩中起きて飛び跳ねていることがあり、不審に思った導師が見に行くと、そこにあった灌木の堅くて光る実が山羊たちに食い荒らされていました。

よく見るとその灌木は、野生の状態になって久しいながらもきちんとした列になって生えており、どこか果樹園を思わせるところがありました。そこで導師は、この荒涼とした地域にかつて、アビシニア (エチオピア) のカッファから来た肌の黒い人々の小さな国があったことを思い出しました。

導師はこの実を焦がし石でつぶしてから煮出して飲むことを発明し、それによって一晩中起きていても眠くなったり疲れを感じたりすることはなくなりました。その後、この飲み物は「Qahwa (カホワ)」と名付けられました。

エチオピアのコーヒーセレモニー

「ブンナ (ブナ)」はアムハラ語でコーヒーのことです。エチオピアはアラビカコーヒーノキ (世界のコーヒー豆生産の大部分を占める)、ロブスタコーヒーノキ (中央アフリカ高原産) 両方の生産で世界的に知られています。

エチオピアの人々にとって、コーヒーは単なる飲み物ではなく、伝統的な「コーヒーセレモニー」を楽しむためのものでもあります。個人の家で、ブンナベット (コーヒーハウス=カフェ) で、人々は友人たちと一緒にコーヒーセレモニーに参加します。

コーヒーセレモニーはエチオピアの伝統的な習慣で、日本の茶道のように、コーヒーを飲むことを儀式化したもてなしの作法のひとつです。手順は大体次のようなものです。

(1) 青草を敷き、セットを設置する
(2) 乳香などのお香を焚く
(3) コーヒーの生豆を鉄鍋で煎る
(4) 煎り上がった豆の香りを客にかがせる
(5) 豆をつぶして粉にする
(6) 水とコーヒー粉をポットに入れ火にかける
(7) おつまみにポップコーンなどを食べる
(8) 1煎目、2煎目、3煎目まで飲む

コーヒーをいれるのは女性と決まっています。2煎目、3煎目のコーヒーには、砂糖ではなく塩やケベ (エチオピアンバター) を入れることもあります。自分が最初に塩入りコーヒーを飲んだのは、南部州アワサでのことでした。こってりしたエチオピア料理を食べた後に飲むしょっぱいコーヒーは、意外にさっぱりしていて違和感なく飲めました。これはこれでおいしかったです。

ガホワ(アラビックコーヒー)

中東でコーヒーといえばトルココーヒーが思い浮かびますが、サウジアラビアなどアラビア湾岸諸国では、アラビックコーヒーがポピュラーです。コーヒーはコーヒーですが、煎った豆を荒くつぶしカルダモンと一緒に煮出したもので、色は緑がかった黄色、いわゆるコーヒーの香りはあまりしません。

これをコーヒーと言われて出されると、たいていの人は「ん?」と思うのですが、アラビア語で「ガホワ (Qahwa)」」と言われ、ベドウィンスタイルのテントで乳香を炊きながら飲んだりすると、これがまたしみじみおいしいんです。

一度にあまりたくさん飲むものではなく、カップもおちょこのような大きさです。お客さんの前で、アラビア風の金のポットを高々と持ち上げ、できるだけ細く糸のように注ぐのがこちらのスタイル。一緒に食べるのはもちろんデーツ (ナツメヤシ)。ガホワの渋さとデーツの甘みが口の中で渾然一体となっていく感覚は最高です。

ちなみにこのガホワ、「もういらない」というときは、空にしたカップを左右にちょこちょこと振ります。これをしないと延々コーヒーを注がれることになるのでご注意を。

写真はリヤドのダウンタウンにあるマスマク城の正面に店を構えるマクハー (喫茶店) のものです。

トンガもコーヒー生産国

世界のコーヒー生産国は「コーヒーベルト」の中に位置しますが、実はトンガもぎりぎり入っていて、小規模ながらコーヒーの生産を行っています。下の地図の右端、フィジーはかろうじて描かれていますが、トンガはその少し東南にあります。

大洋州のブルーマウンテン

フィジー在住中、パプアニューギニア(PNG)のコーヒーをいただきました。日本では馴染みが薄いかもしれませんが (かくいう自分も知りませんでした)、PNGコーヒーは優れた品質で定評があります。

PNGでは1920年代からコーヒーの栽培が始まり、30年代にはジャマイカからブルーマウンテンの苗木が持ち込まれました。気候風土が良く合ったのか、その豆は本家に匹敵すると評する人も。

煎れ方にもよるのでしょうが、コクがあって甘みのある後味が美味しいと思いました。香りはおだやか、口当たりはマイルド。シャキーンと目が覚める鮮烈さではなく、一日の終りに飲みたくなるような、優しい味わいでした。

コピ・ルアク

ジョグジャカルタの Mataram Kopi Luwak は、幻のコーヒーとも呼ばれるジャコウネコの糞コーヒー「コピ・ルアク (コピルアック)」を格安で買うことができるお店 (製造直販所) です。

お店の庭には畑で捕まえたというジャコウネコ が何匹も。意外とのんびり屋なのかな。まあこれだけ捕まるんだから野生にはもっとたくさんいて、コーヒー豆をモリモリ食べて貴重な糞をモリモリしているのでしょう。軒先で天日干しされていた糞は、どれもコーヒー農園から拾ってきたものとのことでした。

ジャコウネコはよく熟したコーヒーの実を選んで食べます。コーヒーチェリーって甘酸っぱくて美味しいんですよね。豆そのものは消化されず8~9時間後に排泄されますが、ジャコウネコは他にも果物しか食べないので、干されていたカピカピのコーヒー豆は、いっさい臭くありませんでした。

干した後は水洗いを繰り返し、さらに人の手で丁寧に表皮をむきます。これも地味に大変な作業。焙煎も人がつきっきりで行います。ジャコウネコのお腹の中で、微妙な酵素の働きによって、独特でまろやかな風味が生まれるのだそう。この風味を消さないためにも、全て手作業で仕上げるわけです。

コピ・ルアクは粉 (1人前5g) をカップに入れお湯 (150cc) をそそぎ、ひと混ぜしてしばらくおいたら出来上がり。飲む時は上澄みをそっといただきます。こんな適当な入れ方で?と思うのですが、それにしてははっきりとコーヒーの良い香りが漂います。ただ、あくまでも優しくふんわりとした味わい。

カフェインも苦味も酸味も少なくとってもマイルドなので、煎ったコーヒー豆をきび砂糖やチョコレートと一緒に食べるのも美味しいですよ。

ブルーバタック

インドネシアは、島ごとに豆の種類が豊富なので、マンデリンやトラジャコーヒー、アチェガヨ、ジャワロブスタ、さらにコピルアックまで、いろんなコーヒーを気分によって飲み分けていました。

でも最後は、コクのある美味しさのブルーバタックが一番のお気に入りになりました。「ギヤンティコーヒー (Giyanti Coffee)」で豆を買って、自分で淹れるコーヒーは、なんとも美味しかったです。

アチェコーヒー

コーヒー豆の産地であるアチェ州。現地でコーヒーを注文すると、こんな感じで淹れてくれます。できるだけ高い所から、何度もお湯 (コーヒー) を通します。一見、雑な淹れ方ですが、できあがるとこれが不思議と美味しいんです。

マリアテレジア銀貨

オーストリア・ハプスブルグ家の女王、マリア・テレジア (在位1740-1780)。彼女の横顔を刻んだ銀貨を称して「マリアテレジア銀貨」と言いますが、なぜかこの銀貨がアラビア半島と東アフリカで大きな価値を持つようになりました。とくにエチオピアでは、長い間コーヒーの売買にはこの銀貨だけが使われたそうです。

もともとこの銀貨は、オスマントルコなど東方諸国 (レバント) との貿易を目的に発行されたものでしたが、銀貨それ自体に人気が集中したため、女王の没後もこれ以外の貨幣が通用しないという現象が起きました。そのため、オーストリア政府はその後も1780年銘のマリアテレジア銀貨を発行し続けることになったわけです。

なぜこれらの地域でマリアテレジア銀貨だけが異常な人気を呼んだのでしょう。ひとつの仮説があります。まずヨーロッパで鋳造された銀貨が、イエメンのアデンに着き、エチオピア・カファ地方のコーヒーと交換されました。

カファ地方からは銀貨が税金としてアジスアベバに納められ、アラビア半島から穀物などを買うため再びアデンに戻ります。このように、当時のアラビア半島と東アフリカでは、マリアテレジア銀貨を基盤とした大きな経済流通圏があったというのです。

さらに、アラビア半島の遊牧民の間では、マリアテレジア銀貨をペンダントに加工して、財産として大切に身につけるということが盛んに行われました。サウジアラビアの首都リヤドのアンティーク市場でも、ヒモを通すフックが付けられた銀貨がたくさん見られます (写真参照)。

ちなみに、銀貨をもう1枚の銀貨でコツンと叩くと、「キイィーーン・・・」ととても澄んだ音が響くんです。