大きな災害を前に動物が特異な行動をすることはよく知られていますが、大洋州の王国トンガでは、コウモリの行動にサイクロンの来襲を見て取る伝統的な知恵があります。(過去記事からピックアップ)
フライングフォックス
トンガタプ島の西の方に、コロバイという小さな村があります。民族ダンスのラカラカや歴史あるカバの木など、トンガ人にも誉れ高い村だそうですが、この村をパランギ (外国人) の間で有名たらしめているのが、トンガの観光ガイドにはもれなく紹介されている「フライングフォックス」。
こう言うとなんだかおしゃれな感じですが、その正体はコウモリ。南太平洋に広く見られるフルーツバットの仲間です。実はもう何度もこの村を車で通りかかっていましたが、いつも「どこにいるのかなあ」と思いながら走っていました。
なので、マングローブの植林を見学した帰り道、この村をスタッフの運転で通りかかったときに聞いてみました。スタッフはこのすぐ近くの出身です。「コウモリってどこにいるの?洞窟とか?」すると彼はウフフと笑いながら、車のフロントガラスの先を指さしました。
道の両わきに並ぶ大木。そんな所を指さされても、と思った次の瞬間、「あっ!」と声を上げてしまいました。よく見れば、大木の上の方の枝に、たくさんコウモリがぶら下がっていたのです。なんとなく、コウモリは昼間は薄暗い洞窟で眠っているイメージがあったので、まさかこんなに明るい場所にいるとは思わず、これまでまったく気がつかなかったのでした。
スタッフ曰く、彼が子どもの頃はコウモリの声がうるさくて眠れない日もあったそうですが、今はかなり減っているそう。きっと村人がコウモリを捕獲しすぎたので、どこかに行ってしまったのだろうとのことでした。
釣り糸で凧をあげると、さすがのコウモリも避けきれず、糸に羽を切られて墜落するのだそうです。こんな方法で、ときどき村人はコウモリを食していたとのこと。でも、あるガイドブックによれば、トンガではコウモリは王様のご馳走であって、庶民はけっして口にしてはならない神聖な動物だったのだとか。
普段は人の手が届かない大木のてっぺん付近にぶら下がっているコウモリたち。これが、人の目線の高さに降りてくると (時には人家の生垣にも)、その数時間後にはサイクロンが来るのだそうです。
なのでそんなコウモリを見た村人たちは、戸板を打ち付けたり備蓄を確保してまわったり、急いでサイクロンの来襲に備えるわけです。こういう知恵はぜひ次世代に伝えてほしいですね。