A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

エチオピア人とハム

食に保守的なゲタッチョさん

アジスアベバから南部諸民族州に出張していた時のこと。現地でアテンドしてくれたエチオピア人スタッフも交え、夕ご飯を食べながら話題が健康から食べ物、そしてお肉のことになりました。

そこでふと、「豚肉は美味しいのに、エチオピア人はあまり食べないよね」と聞いてみました。エチオピア北部はイスラム教徒が多くタブーな話題、というか意味のない質問ですが、南部州ではそこは問題ないと思ったので、会話のつなぎになればと。

すると、南部州生まれで南部州の役所勤めをしているゲタッチョさんが、「豚肉が美味しい?」と怪訝そうな顔。すかさず、「いや、例えばハムには豚肉がぴったりでしょ」と言うと、今度は「ハムって何?」といぶかしげに聞いてきました。

唐突な質問に、「えーと、豚肉の塩漬けで、保存がきいて、えーと・・」 などと口ごもっていると、アジスアベバ出身のテショメさんが助け船を出してくれました。「ほら、サンドイッチにはさんで食べるやつ」と説明してくれたのですが、ゲタッチョさんは「サンドイッチねぇ・・」となんだか腑に落ちない様子。

ゲタッチョさんは国立大学を出ており、一時は役所のトップにもなったことがある、言うなればエチオピアの中ではかなりのインテリです。その彼がハムを知らないというのは、一体どういうことなのでしょう。(ついでに言うとサンドイッチも危ういかも)

夕飯後、ホテルの部屋に戻ってからじっくり考えてみましたが、結論としては、やはり彼の住む南部州の土地に、ハムは売っていなかったということなのでしょう。肉は肉として新鮮なものを食べる、たしかに何ひとつ間違っていません。何よりエチオピアでは、生肉が一番のご馳走です。

それに、今やハムは単なる保存食から、手の込んだ嗜好品になったと言えます。そこには付加価値が発生し、手間暇かかる分、値段も上がります。そこに価値を見出す (お金を払う) かどうかは、世代ごとにもギャップがありそうです (ゲタッチョさん=50代)。

ちなみに、以前ゲタッチョさんに日本酒をあげたら、一口だけ口をつけるや否や「何だこれ?」と言ってコップを置いてしまいました。今後もしハムをあげても、きっと喜ばないだろうなぁ。食に関しては超保守的な人みたいです。

エチオピア紳士はハムを持つ

日本から来た出張者をアジスアベバの飲み屋街に連れて行った時のこと。そこは通りの両側に小さなお店がたくさん並ぶ所で、入ったお店も6畳ほどの狭いものでした。

店内にはカウンターがあり、スツールが2脚。そこに2人で腰掛けビールとアンボを注文すると (自分は下戸、アンボ=炭酸水)、ほどなく年配の紳士然としたエチオピア人が入ってきました。

渋いジャケットを羽織った紳士は、すでにほろ酔い加減。いい調子で店のマダムに冗談を飛ばしています。ウイスキー (1杯10ブル=130円) を受け取ると、こちらにも「乾杯」という仕草をして、にこやかに挨拶をしてくれました。

店内に流れる、まるで日本のムード歌謡か演歌のようなエチオピア音楽に耳を傾けていると、そのうち彼は、右手をジャケットのポケットに入れ、何かをまさぐり始めました。

見るとはなしに見ていると、ひらひらしたものが右手につかまれて出てきました。薄暗い店内のこと、ティッシュでも取り出したのかなと思っていたら、紳士はおもむろにそのひらひらしたものをパクリと食べたのです。

一瞬、何が起こったのかわからず、思わず「えっ?」と身を乗り出してしまいました。アムハラ語ができる連れの出張者が、驚いた様子で「ムンドゥンノー?(何なの?)」と驚きの声を上げました。

するとその紳士はわずかに微笑みながら、「ハムだよ、ハム。お酒を飲む時は何か一緒に食べなきゃ」と、少々自慢げに語りかけてきました。

「ポケットに直接ハムを入れてるの?」と出張者が続けざまに質問すると、紳士は少し表情をかたくして「まさか。ちゃんとくるんでいるさ」と、ポケットの中から透明なビニールに雑にくるまれたスライスハムを取り出し、見せてくれたのでした。

「食べてみる?」と差し出されましたが、そこは丁重にお断りしました。ポケットにスライスハムを忍ばせて飲み屋に来るのが、果たして紳士なのかという議論はあるものの、携帯食としてのハムを有意義に活用しているという点においては、自分より確実に一歩先に行っているなと、そんな気がしたアジスの夜。

写真はこの飲み屋街の大晦日 (9月10日) の様子。それぞれお店の前で松明が焚かれます。この日ばかりは子どもたちも夜更かしOK。

※過去記事:エチオピアの伝統・文化