プロフやラグマンなど、ウズベキスタンには "食べるべき" 美味しい料理がいくつもありますが、実は真に味わうべきは「ノン (Non)」。
ノンはウズベキスタンの食卓には欠かせない主食、パンです。内部が400℃にもなる大きな石窯 (タンディール) の、内壁にひとつずつペタンと貼り付けて焼かれます。
ノンはウズベキスタン各地に様々なタイプがありますが、プロフ (ピラフ) を食べる時もラグマン (うどん) でも、ウズベキスタン人は必ず一緒にノンを頼みます。
ノンはただ主食であるというだけでなく、そこにはウズベキスタンの文化、ウズベキスタン人の精神性を見て取ることができます。
ノンは結婚式、出産、息子の兵役など、人生の主要な場面で欠かせないアイテムです。とくにノンをちぎる行為 (ノンシカノン、ノンシンディリッシュ) には大切な意味が。
ノンをちぎり、家族や友人、近所の人たちとノンを分かち合うことは、互いの団結を深めたいという気持ちを表します。
ウズベキスタン人と食事をすると、必ず最初に誰かがノンをちぎってくれます。当初は違和感もありましたが、今ではその精神性に感銘を受けるようになりました。
ノンは "丸くて平たくて大きいパン" というだいたいの共通項はありますが、装飾や色合い、食感は千差万別。
有名なサマルカンドのノンは、中がみっちり詰まったずっしり重たいパンです。もちっとした食感と豊かな小麦の香りは、これをベストにあげる人が多いのも納得の美味しさ。
しかし各地にノンはあれこれあって、とくにウズベキスタン人が地方出張のお土産にくれるノンは、やはりどれも美味しいと思います。
ボゾル (Bozor/市場) ではいろいろな種類のノンが売られています。なかなか食べる機会がない、ウエディング用のカラフルなノンも。
自分もたびたびボゾルに行って、それまで食べたことがないノンを買い、味くらべをしています。
出産祝いとしてもノンは定番。小さなナイフ、鏡、その他のお守りと一緒に、ノンはゆりかごの中、新生児の枕の下に置かれます。
兵役のために家族を離れる若者は、出発前にノンをひと切れ食べ、退任後に帰宅し残りを食べる習わしがあります。 こうすることで、無事の帰還が保証されるのだそうです。
「タシケントはノンの街」という表現があります。これは、ふたつの大戦があった最も困難な時代に、住民が互いにノンを分け合い、命を継いだことから言われるようになりました。
そしてこれは、ウズベキスタン全土でも同じことが言われます。ノンは、ウズベキスタン人の優しさ、寛大さ、さらにおもてなしや美しさの象徴でもあるのです。
旧ソ連時代、非生産的なノンの製造工程を機械化する試みがありました。ノン屋は閉業を強いられ、ノン職人は資本主義的な起業家だと迫害されました。
しかし幸いなことに、ソビエト政府の試みは失敗に終わりました。人々はやはり、職人がタンディールを使い手で焼いたノンを求めたのです。
最後にウズベキスタンの諺をひとつ。
『ノンを尊ぶことは、国を尊ぶこと』