A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

イルハム・アルマドファイ(The Baghdad Beatle)

1942年、イラクに生まれたイルハム・アルマドファイ (Ilham Al-Madfai) は、12歳でギターを習い始め、1961年にはイラクで初めてのロックンロールバンドを結成し、活動を開始しました。

バンド仲間と3年間クウェートに住んだ後、学位取得のためロンドンに留学。すぐに「バグダッド・カフェ」の常連となった彼は、ポール・マッカートニー、ドノヴァン、ジョージィ・フェイムなど多くの英国ミュージシャンと交流を持ちました。

1967年にイギリスからイラクに戻ると、スパニッシュギターを使ってイラクのフォークミュージックを奏でるなど、西洋の楽器 (ギター、ベース、ドラム、ピアノ) で伝統的なアラブ音楽を演奏するスタイルは、たちまち人気を博しました。

1970年代、彼はイラクの国民的歌手として活躍しますが、1979年にサダム・フセインが政権を掌握すると、その後10年間はイラクを離れ、湾岸諸国で建設業に従事するなど、不遇な時を過ごさざるを得ませんでした。

1990年、湾岸戦争の直前にイラクに帰国しますが、出国を禁止されるなど抑圧が続いたため、1994年にヨルダンに出国、そこに居をかまえることに。すると、その並外れた才能と功績が評価され、フセイン国王からヨルダン国籍が与えられました。

それからも活動を続け、2009年にバージンレコードから出したアルバムがプラチナセールスを記録すると、その名声はアラブ圏以外にも広がりました。2010年にはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでも演奏を行っています。

ついた異名は「The Baghdad Beatle」。単数形ですから「バグダッドのひとりビートルズ」といったところでしょうか。自分はベイルートのハードロックカフェで行われたライブのCDを持っています。フェイルーズの名曲を歌う「Bint El Shalabeyah」もかなりいいですが、最も有名な曲のひとつ「Khuttar (フッタール)」がいぶし銀の素晴らしさです。

フッタールはアラビア語の歌詞がネットにも上がっていますが、言葉に含蓄がありすぎるのか、単純に翻訳してもなかなか意味がつかめません。歌詞を英訳しているサイトもいくつかありますが、どれもぜんぜん定まっておらず。

そもそも「フッタール」がイラクの方言で客人 (訪問者) を意味するなど、地域独特の言葉や表現が多く、イラク人以外にはその意味が正確には伝わりづらい印象です。アラビア語話者以外には、なおさら厳しいですね。

「列車が行ってしまった」というような歌詞がありますが、これは男性が未婚のまま初老を迎えてしまった、さびしい境遇の表現だと、昔レバノン人に聞いたことがあります。単純に "もう手遅れ" という意味もあったような。

なので歌全体の意味を理解しているとはまったく言えないのですが、ニュアンスとしては、『客人を迎えることが何よりの喜び、なのでそのため蝋燭に火を灯そう』と歌いつつ、『客人 (喜び・幸せ) を待ちわびながら、時間だけが過ぎ老いていく』といった内容なのかなと。うーん。。。