A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

シンドラーのリストを観て思う(再録)

この映画を観たのはもう30年ほど前のこと (1994年)。下の文を書いたのは2006年。ここ数日の国際ニュースから、ふと思い出し再録。パレスチナ自治政府が十分に国民をケアできていないという不満から、地元住民がハマスに寄せる支持・期待は大きかったのでしょうが、長年変わらない困窮生活に住民も耐えかね、今夏は事情が違ってきたようです (反ハマス・デモの発生)。

カタールからの大口資金援助も今年になって一部途絶えたそうですし、今回のハマスの作戦は、パレスチナ解放のためというよりも、組織存続のためといった思惑があるのではないかと、つい穿った見方をしてしまいます。ガザが攻撃されれば、世界の同情を集め、イスラエルへの非難が高まり、そしてアラブ諸国から多くの資金・軍事援助があるでしょうから。ただし今回は (今回も)、イスラエル非難の声はそれほど多くないように思います。

シンドラーのリストを観て思う

この映画、あるシネマガイドブックにはこう書かれています。

『第二次世界大戦中の実話をもとに、スピルバーグが、商業的採算をあえて無視して取り組んだ入魂の反戦ヒューマンドラマ』

自分は本作の公開時期にたまたまロンドンに行く機会があって、ピカデリーサーカスの映画館で観ることができました。サウジアラビアなど中東諸国では当然のごとく上映禁止だったのでよかったです。

映画開始早々から、画面に釘付けになりました。ナチスドイツの所業に戦慄をおぼえ、当時ユダヤ人が置かれた境遇に涙がこぼれました。最後にシンドラーが言った、「今からあなた達は自由だ、そして私は追われる立場になる」というセリフには胸を打たれました。

見終わった後は体感2時間くらいと思っていたので、実際には3時間の超大作だったと知り、それだけ時間を忘れて見入っていたことに驚きました。地下鉄の最終に乗れるか心配になり、小走りで映画館を出たことをおぼえています。

世界各国 (欧米諸国) で絶賛を受けているのも納得の作品でした。しかし最後の最後に、ちょっとだけ違和感を感じました。画面がカラーに変わり、役者たちが墓地に集まって来るシーンで、実は劇中の役者が、映画に出ていたユダヤ人 (役柄) たちの子供だったことがわかります。

おそらくスピルバーグは、ナチスドイツによるユダヤ人迫害が真実の話であり、この映画が実話に基づいたドラマであることを強調したかったのかもしれません。あるいは、「ほとんどドキュメンタリーだぞ」と言いたかったのかも。

感動に酔いしれていた自分は、ここでふと現実に引き戻されました。ナチスの魔の手を逃れ、生き抜いたユダヤ人。次に彼らが行ったことは、パレスチナ人の迫害です。イスラエル建国はユダヤ人の悲願でしたが、それによって国を追われたパレスチナ人は160万人。

突然ユダヤ人によって故郷を追われ、身ひとつで命からがら逃げ込んだ先の国では現地のアラブ人から疎まれ、そして数十年たった今でも、解決の糸口すら見いだせないパレスチナ問題。親アラブ (親パレスチナ) の自分には、憤りしかありません。

この映画をドキュメンタリーとして観ると、ナチスによるユダヤ人迫害は、ユダヤ人をして「他者を殺してでも生き抜く」ことを肝に銘じさせたことがわかります。もう少し穏やかな言い方をすれば、自分たちの約束の地に、不在中 (ディアスポラ)、勝手に住みついたアラブ人を追い出しただけ、ということ。

この映画、中東に住んでいる身としては、反戦ドラマとはとても思えません。昔これだけひどいことをされたんだから、自国を必死で守るのも仕方ないと、イスラエルの戦争を肯定しているような気がします。そして自分も、イスラエルにはその権利がある、と図らずも思ってしまいました。

たぶん問題は、アラブがまったく一枚岩ではないことなんですよね。パレスチナ人が政治的に解決したいと思っても、変なところから戦闘資金が入ってきて煽られて、ちょこちょこテロ攻撃をしかける輩が出る。当然、イスラエルは反撃するわけです。

もともとパレスチナ人は、イスラエルとの共存という現実路線も十分ありと考えていたのに、パレスチナ対イスラエルという社会問題が、いつの間にかイスラム対ユダヤという宗教戦争になってしまったのは、悲劇としか言いようがありません。そして、そうさせたのはいったい誰なのか。

イスラエルは殺戮者ではありません。生存権・自己防衛という当然の権利を行使しているだけです (旧約聖書に基づいて「約束の地」とか言うからややこしくなりますが・・・)。今もっとも必要なのは、他者 (欧米、産油国、テロ組織) は一切、手も口も金もださず、本当の意味でのパレスチナ対イスラエルの二者交渉を行うことでしょう。

先人が経験した悲劇を後世に伝えることは大事。でもそれは反省を伝えるのであって、悲しみ・怒り・復讐を後世に託してはいけない。映画「シンドラーのリスト」はそれをもっと明確に言うべきでした。もちろん、言っていたとは思うのだけれど、人によって様々な受け取り方ができるよなと。名作ですけどね。

 

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