「Haunted Universities 2nd Semester」あるいは「Term 2 Sayong Kwan (เทอมสองสยองขวัญ)」は、2022年のタイのオムニバスホラー映画です。2009年の映画「Haunted Universities (Mahalai Sayongkwan)」の続編的位置づけで、いわば「学校の怪談:二学期」といったところ。
2009年作品もオムニバスホラーで、タイの大学に伝わる (とされる) 怪談をもとに、4つのストーリーが描かれました。キングモンクット王工科大の「トイレの花子さん」、タマサート大学の「赤いエレベーター」、チェンマイ大学の「霊安室」と「ルームメイト」。
なお、このうち実際に「赤いエレベーター」は恐ろしくも悲しい歴史をもち、バンコクに存在する心霊スポットのひとつにあげられています (⇒コチラ)。
さて、ホラー映画といえばフレッシュな若手スターを起用することも多々ありますが、本作もオムニバスストーリー3作それぞれに、人気の俳優を起用しています。
①Last Cheer (最後の歓声)
メーサ (Praewa Suthamphong /Music) は子供の頃から幽霊が見える霊媒体質。そんな彼女をずっと支えてきたのが、同じく幽霊が見えるタエ (Panisara Rikulsurakan /Care)。
タエは、見ようとしなければ見えないんだと、メーサにもっと強い気持ちを持つようたびたび励ましてきましたが、メーサはなかなか克服できず、日常生活にも支障が出るほどでした。
そんな二人が一緒に入学した大学で、新入生に対して上級生が、大学の応援歌を教える会が催されました。体育館に集められた新入生数十人が歌を練習する中、またもメーサは幽霊を目撃し、叫び声を上げてしまいました。
タエに手を引かれ、体育館から出ていくメーサ。練習は中断され、上級生がひそひそと相談を始めました。そう、この大学には古くからある怪談が伝わっていたのです。過去の亡霊のせいで、毎年決まって生徒が亡くなるのだという。
外の空気を吸って少し落ち着いたメーサ。タエは上級生に早退を申し出ましたが、その会を仕切っていたOBがうんと言ってくれません。彼自身、幽霊や怪談を信じていないようです。あるいは、学校に伝わる怪談を断ち切りたいと考えたのかもしれません。
OBは他の生徒に向かって言いました。誰か他に幽霊が見えたやつはいるか、幽霊を信じているやつはいるかと。一人でもいるなら、今日は解散だと。しかしその大声に生徒は萎縮して、誰も手を挙げる者はいませんでした。
OBはおびえるメーサの横にいるタエに話しかけました。お前は幽霊が見えるのかと。タエは涙を流しながら、私は見えないと言いました。それを聞き、悲しそうな顔をするメーサ。ほらみろと言わんばかりに、じゃあ練習は続行だとOBが言うと、メーサは立ったまま吐いてしまいました。
しんと静まり返る体育館。タエは「やはり早退します」と言って、メーサを連れて出ていきました。そして校内をさまよう二人。メーサを見失ったタエは、古い資料室で自分も幽霊を見てしまいますが、必死でこらえました。そして屋上へ。そこにはメーサの姿がありました。
メーサは屋上の縁に腰掛けていました。すぐにでも飛び降りそうな格好です。タエはメーサに話しかけ、思いとどまらせようとしましたが、言い合いの末、タエにとってメーサの存在が、時には負担だったなどと口走ってしまいました。
するとメーサは、幽霊が見えることよりも、タエに裏切られた (幽霊が見えないと言った) ことの方がショックだったと言って、絶望の表情のまま、校庭に身を投げるのでした。その場にうずくまり号泣するタエ。
数年後、タエは卒業式を迎えました。一人で屋上に上り、メーサに向かって花束を捧げると、一冊の本を取り出しました。いつも二人で一緒に読んでいた本です。まるで隣にメーサがいるかのように、楽しそうに本を読むタエでした。
【感想】葛藤を抱えるメーサ (を演じた Music の演技) に引き込まれました。ホラー感もなかなかのもの。ゾクゾクが止まりませんでした。
②The C(ベッドC)
医科大学に通うテン (Teeradon Supapunpinyo /James) は大学の寮に住んでいます。長期休暇の際も実家に帰省せず、寮で勉強を続ける努力家で、そんなテンを支えているのが、幼馴染のタン (Sawanya Paisarnpayak /Nana) でした。
あまりにも勉強に打ち込む姿に、時々タンは不安になります。もっと甘い言葉をささやいてほしい時もあるからです。しかしテンはおかまいなしに、絶対に医者になるんだという信念を曲げず、恋愛そっちのけで勉強を続ける毎日でした。
タンは自分で話した物語を音楽ファイルにして、テンに渡していました。深夜の勉強中、眠気覚ましに聞いてもらうためです。その中のひとつに、この大学に伝わる怪談がありました。卒業できずに亡くなった生徒が、毎年命日になると、寮に戻ってくるというものです。
夜中、ふとこの話を聞いて、思わずぞっとするテン。実は亡くなった生徒が寝ていたのが、テンの部屋 (相部屋)、そしてテンのベッドでした (ベッド番号C)。ただしこの時テンが自分のベッド番号に気づいていたかはわかりません。
長期休暇が始まり、ルームメイトも帰省して、寮にはテン一人が残りました。そこにタンが現れます。夜10時の最終バスまでならここにいられると、テンション高めのタンでしたが、ふと真顔になって、最近テンの様子がなんだかおかしいと言いました。
何か隠し事があるなら何でも言ってほしいと言うタン。しかしテンは勉強の邪魔だと、少し静かにするようタンをたしなめるのでした。
ふと気づくと、眠りに落ちていたテン。夜10時を過ぎており、部屋にタンの姿はありませんでした。あわててタンに電話をかけますが、なかなか出てくれません。不安になったテンは部屋を飛び出しますが、その時ふいに、寮の電灯がいっせいに点滅を始めました。
眩しい光の点滅に、ぶるぶると震えだすテン。そう、彼は、てんかん発作を持つ体質だったのです。いつ頃からなのかわかりませんが、この事実に気づいた彼は、不安を振り払うかのように、勉強に打ち込んできたわけです。
直接的な描写はなかったと思いますが、おそらくタンは何かの持病を持っています。彼女の病気を治すため、テンはどうしても医者になりたかったのです。
さて、電灯の明滅が続く寮内に、ひとつの黒い影がありました。この日は亡くなった生徒の命日で、その亡霊がベッドCに戻ってきたのでした。異様な気配におののき、その場から逃げようとするテン。しかし痙攣がおさまらず、床に倒れ込んでしまいました。なんとか床をはいずって、寮を逃げ回るテン。ついには、亡霊に馬乗りにされてしまいました。
首を絞められうめき声をあげるテン。しかしふと、いつも学生が唱える校訓を思い出し、それを口にし始めました。医者は人を助けるもの、といったような内容です。それを聞いた亡霊が、わずかに手を緩めました。テンは何かに気づくと、校訓をしゃべり続けました。この亡霊ももともとは医者の卵だったのです。志は同じだったはず。
そうしてなんとか、テンは難を逃れることができました。夜が明け、テンは身体が不自由なまま、タンに電話をかけました。そして、自分がてんかん発作持ちだということを打ち明けたのです。こんな自分では医者にはなれないから、タンを守ることができないと、悔しい気持ちを伝えました。
するとタンは、電話の向こうから優しい声で、医者にならなくてもいい、それでもテンに守ってもらいたいのだと、想いを伝えるのでした。
【感想】テンの熱演が見もの。というかほぼそれがすべてなので、亡霊にも脇役感が。ホラー味はちょっと弱いかも。もっとタンが見たかった。
③Old Science Building(理学部旧校舎)
理学部新校舎に夜遅くまで残り、卒業論文作成に勤しむ女学生三人組。ミーナ (Kemisara Paladesh /Belle) は兄が届けてくれるパソコン (修理済み) 待ちで、やや手持ち無沙汰。気分転換にと学校に伝わる怪談を話し始め、二人から嫌な顔をされていました。
怪談は、理学部旧校舎にまつわるもの。理学部の錆びた看板の下をくぐる際、化け物に襲われるというものでした。そのせいで、過去、心臓発作を起こした生徒に届くはずの薬が届かず、薬を担当した教員も、そして薬が届かず亡くなった生徒も、二人ともこの世に未練を残してしまったのだそうです。
ミーナの話す怪談に、すっかり論文を書く手が止まってしまった二人でしたが、怒りながらも仲が良いのが伝わってきます。そこに、ミーナの兄ゴルフ (Krit Jeerapattananuwong /Kit) からようやく電話がありました。早く理学部に来いとはっぱをかけるミーナ。しかしゴルフが向かったのは、図らずも旧校舎の方でした。
渡り廊下の錆びた看板の下をゴルフが通ろうとすると、急に看板が揺れだしました。風が吹き荒れ、今にも雨が降り出しそうな急展開に、訝しがるゴルフ。看板をじっと見つめたその直後、「やっぱりこっちに行こう♪」と急に真横に抜けていくゴルフでした。
そう、この展開、ホラーはホラーでも、ホラーコメディなんです。その後なんやかんやおもしろ展開があって、クライマックスは教員の幽霊と生徒の幽霊から挟み撃ちを仕掛けられるミーナたち三人組。そこに颯爽と現れたのは、薬瓶を手にしたゴルフでした。
ゴルフが薬瓶を教員に投げつけると、当然ながらそれをキャッチ、そのまま成仏していきました。ミーナの首を締めつける生徒には、彼女が果たせなかった卒業式用の記念写真を撮ってあげると、こちらも成仏。「これで君も卒業だよ」というゴルフの言葉が優しかった。三人組と幽霊が、四人並んで記念写真、映画館の中も観客から笑いが起こっていました。
さて、大学を中退して今はバイトに励むゴルフですが、常々それを気に病んでいる様子。ミーナはゴルフを見送る際、「大学中退がイコール人生終了じゃない、まだまだがんばれるよ、兄さん」と声をかけました。なんていい妹だ。。
【感想】ホラーコメディとしてはかなり出来のいい、観ていて気持ちのいい作品でした。三人組の残りの二人もいい味出してます。
映画ポスター
いま映画館には本作にちなんでアカデミックドレスが展示されています。
【参考】
・Music出演作:Where We Belong
・Care出演作:The Promise
・James出演作:Bad Genius、Homestay