フィジーを舞台にしたフィジー人の映画 "Highway to Suva" をスバの映画館で観ました。セリフはヒンディー、英語字幕。いろんな意味で問題作です。日本に輸入されることはまずないでしょうから、ちょっと感想を。ネタバレです。結果的にディスってます。ゴメンナサイ。
この映画、YouTubeで予告編を観ることができますが、一見ロードムービーです。オフィシャルウェブサイトにも、「スバに向かうバスに乗った様々な面々・・」的な説明があり、インド系映画にしては珍しくワチャワチャしていない、ミニシアター系のテイストを感じました。きっとインド人(インド系フィジー人)にはウケないだろうなと思いつつ、映画館に足を運びました。
案の定、映画館はガラガラ。公開後初めての週末なのに、客席は2割程度しか埋まっていません。まあ逆に、自分の予想が当たっているかもしれないと (自分の好きなミニシアター系ロードムービーかなと)、ちょっとだけ期待が高まりました。しかしいざ始まってみると。。。
ストーリーを簡単に言うと、親に甘やかされて育った男女二人が町で偶然出会い、お互い一目惚れ。しかし両家の親は大反対。スバに向かうバスに乗ってかけおちするも、途中で事件に巻き込まれ足止めを食らうと、最後は警察の捜索により保護され、二人は無事家族の元へ。めでたく二人の結婚が決まりました、というもの。上映時間は2時間弱。いわゆるロードムービーではありません。途中で起きる事件にまつわる描写、主人公不在の時間がけっこう長いです。
まず驚いたこと。全員棒読み、棒演技。いや、これはあえて素人役者を使ってリアリティーを演出したのかも。と思ったのもつかの間、脚本、演出、撮影、編集、音響、すべてが低クオリティー。両親が二人の交際を反対したのも、それぞれが北インド、南インド出身で、お互いいけ好かない奴らだと思っているから (面識はないが相手の苗字でわかる)。
かけおちバスに乗って2時間くらいでもう別れ話をしていた二人だというのに、保護された後、両親は二人の結婚話を進めます。二人は大学で勉強を続けると言っているのに、なにはともあれ結婚しろと猫なで声の両親。
イスラム圏にはよくあるパターンですが、かけおちなんかしたらたちまち噂が広がり、もうその女性は傷物、一族の恥、他に嫁の貰い手などありません。その男性と結婚するしか家族の名誉を保つ方法はないんです。あ、家族がその娘を殺す "Honor Crime" という方法もありますね、中東の一部地域では。
そうして迎えたエンディング。両家は婚約の話し合いで集まるのですが、性格の悪そうな叔母が口出しし、花嫁の伝統衣装で一悶着。捜索をしてくれた警察官がなぜかその場に乱入し、警察官にいさめられ、なんとなくめでたしめでたしっぽい終わり方になりました。最後、なぜこんな後味の悪い感じにしたのかな。嫁入りしても絶対に叔母からいじめられるって容易に想像がつきます。なにより若い二人がただ困惑するだけで、幸せな感じがちっともしなかった。
あと、腑に落ちない点が多々あります。映画の冒頭、あるインド人一家がナンディ空港に降り立ちます。お父さんは久しぶりのフィジーに興奮気味。それを生意気にディスる10才くらいの息子と、すべてにおいて冷ややかな母親。彼らが主人公と同じバスに乗るのですが、その後いっさいエピソードなしってどういうこと?!乗るまでけっこう映されてたよ。なんのための意味深描写?バスの中で主人公と触れあううちに、息子は素直に、母親はお父さんに惚れ直すとかそういうパターンじゃないの?
なにしろ主役の二人がちょっと魅力に欠けていて (演出の問題だと思います)、他にもあまり共感できる登場人物がいなくて、フィジーで暮らしたことがある人なら一度は感じる、インド人のあの排他的で高圧的で陰湿っぽい感じを、まあまあリアルに描いてしまったのは、失敗だったんじゃないかなと。
逆に、警察官二人のうち、インド人とバディを組むフィジー人が、ヒンディーを話し、インド人のつまらないプライドに喝を入れ、冗談を飛ばして場面を明るくする、いいスパイスになっていました。実際の生活でも、フィジー人はヒンディーを話す人(話そうとする人)が多く、それにくらべてインド人はフィジー語でコミュニケーションをとろうとする人は少ないそうです。ちなみに共通語は英語。
ということでいろいろ書きましたが、ラウトカ、ナンディ、シンガトカ、スバの町並みがたくさん出てくるので、DVDが出たらやっぱり買うと思います。でもこの二人、たぶんスバには着いていないんですよね。だいぶ序盤でバスを降りちゃったような気がする。バスの中の描写がほとんどないし、他の乗客との触れあいも皆無。いや、ひと言、「後ろのおやじが私達の会話を盗み聞きしてるわ、キモッ」ってセリフはあったかな。。。