以前、紅海の海水を死海に注入し、その消滅を防ぐという大規模な計画について投稿したことがありました。(※Red Sea–Dead Sea Water Conveyance)
ブログ引越しの際に落としてしまったのですが、「あれってどうなったのかな」とふと思い出し検索したところ、2021年に計画が放棄されたことを知りました。
建設コストが莫大なこと、環境影響に懸念があること、国際的な協力が必要なことなど、当初から言われていたことが、最後まで解決しなかったのかもしれません。
この計画が成功したら、アラル海復活のヒントになるのではないかとぼんやり考えていたこともあって、計画の破棄はとても残念です。以下、過去記事の再録です。
死海を守れ:Red to Dead Project
海抜マイナス400メートルという世界で最も低地にある湖、死海。この50年間の農地・宅地開発によって死海に注ぎ込むヨルダン川など周辺河川の水量が著しく減っており、100年前にくらべて水位は25メートル低下、現在は年間80センチから1メートルもの水位低下に見舞われています。
そのため、紅海 (Red Sea) から運河をつくり1日500万トンの水を死海 (Dead Sea) に注入する大プロジェクトが計画されています。(※注:海水の半分は淡水化され周辺地域の飲料水や農業用水となり、半分が死海に注がれる)
計画はイスラエル、ヨルダン、パレスチナの三者で合意されており、各国の企業や調査機関によりすでに関連調査が開始されています。見込みでは、180キロに及ぶ運河の建設費用は5億ドルに上るのだとか。
運河が完成すれば死海の水位低下は阻止され、死海経済圏の保護は約束されます。しかし、環境に対するネガティブな影響が無視されていると訴える学者も後を絶ちません。
運河は地震が観測されるシリア~アフリカ地溝帯に位置するアラバ渓谷を通る予定ですが、膨大な海水が地下に染みこみ、真水の帯水層を浸食する可能性が指摘されています。
この渓谷にはイスラエル側にもヨルダン側にも集落がありますが、彼らは飲料水や農業用水などをすべて地下水に依存しています。運河の海水の地中への染みこみを100%防ぐことは不可能であり、アラバ渓谷以外にも各地の帯水層に与える影響が懸念されています。
また、これまでアカバ湾が紅海の北の端、どん詰まりだったわけですが (シナイ半島の西側にはスエズ運河がありますが)、ここに運河をつくることにより潮汐や生態系にどのような影響が出るかはまったくの未知数です。
さらに、これまで真水しか注がれていなかった死海に大量の海水を入れることは、死海の水の化学組成を変えてしまうことになります。
他にも、水位が予想 (計算) 以上に上がってしまうこともあり得ます。そうなると、現在死海の波打ち際につくられているホテルや工場はどうなってしまうのでしょう。
これらの問題を懸念する専門家は、むしろイスラエル、シリア、ヨルダン政府が、ヨルダン川とヤルムーク川の死海への流入量確保について平和的に合意すべきであると主張しています。
水位の復活まで数百年を要するでしょうが、これが最も環境に影響を与えない唯一の方法だからです。
* * *
■関連過去記事:アラル海と死海