A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

アラビアン・サイドライト(2)

サウジアラビア現地紙 Arab News の囲み記事「サイドライト (Sidelight)」より。(サウジアラビア滞在中に書いた投稿を再掲、ブログ引っ越しの際に削除していたもの)

お役所仕事

女性の運転解禁?
サウジアラビア東部州のアルアハサー・パスポート管理局は、15才の少女のパスポート申請を却下しました。理由は、サウジアラビア南西部の町ハミス・ムシェートで、その少女は何度も交通違反をした上、罰金を払っていなかったからです。少女の父親がパスポート管理局に異議を申し立てたことは当然でしょう。「女性の運転が許可されていないこの国で、どうやったらうちの娘が交通違反をおこすんだ?」と苦情を言ったのです。しかし、管理局の返答は「申し立てを受け付ける」というそっけないものでした。この父親は弁護士に相談し、ハミス・ムシェート交通局を訴える準備をしています。

ソビエトアラビア?
ジェッダの市役所にIDカードを受け取りに行ったあるサウジアラビア人男性が、カードを見て目を丸くしました。彼の国籍がロシア人になっていたからです。サウジアラビア中央部のクンフザ市、マクシュシュ村生まれの彼ですが、IDカードには 「Makshush, Russian Federation」と記載されていました。彼はすぐに市役所にミスを伝え、カードを返却しました。今は新しいIDカードができあがるのを待っています。

犬がお役所を動かした
サウジアラビア東部州の町カティーフでは、公営墓地の番人が辞めてしまって以降、長らく後任者が配置されませんでした。いつしか墓地には野良犬が集まるようになり、時には埋められた遺体を掘り起こすいたずらも。そんなある日、墓地の入り口の前に腐臭を放つ人間の足が1本転がっていて、市民の目にさらされるという事件が起こりました。これを見た市民は激怒し、多くの苦情が市役所に寄せられました。カティーフ市役所がすぐに墓地の番人を任命したことは言うまでもありません。

たぶん
マディーナに住むある男性が、彼の妻になぜか交通違反切符が3枚も切られていることを知ると、すぐに交通警察署に苦情を申し立てに行きました。「信じられない。女性に運転が許されていないこの国で、なぜ妻が交通違反を起こし得るのか」そうまくしたてる男性に対して係官は、「たぶん何かの手違いだろう」と伝えました。この "たぶん" という単語は、言葉の選択としては "たぶん" 間違っているでしょう。

銀行も
ターイフに住むあるしがない教員が、銀行から1420万リヤル (4億円) のローンを早く返済するよう督促を受けました。これを聞いた教員の驚いたこと。そもそも彼の身分と給与レベルでは、これだけの借金が認められるわけありません。完全に銀行の手違いでしたが、それを銀行が認めるまでには何週間も時間がかかりました。その間、この教員は口座からお金を引き出すこともできず、友人たちからお金を借りてなんとか乗り切ったそうです。

呆れた人々

博士?証拠は?
サウジアラビアでは、学位はとても重要な意味を持ちます。名前に Dr. (博士) や Eng. (エンジニア/技師) をつけて名乗れる人は、実際に様々な特権を享受することが期待できるからです。サウジアラビア教育省は先頃、省内でひとつの警告文を回覧しました。それは、自らの学位について詐称しないこと、また、政府認可校以外で取得した学位については認めないというものでした。

なぜ今さらこんな当たり前のことを言っているのかというと、実際に省内で局長4人、課長6人、教育アドバイザー50人が Dr. と詐称していたことが発覚したからです。学位詐称は、真に努力して学位を取得した多くの人々に対する侮辱であり、教育省では今後も断固として取り締まっていく方針だそうです。サウジアラビア人が Dr. を名乗ったら、卒業証書を確認した方がいいかもしれません。(←自分がこう思ったんじゃなくて新聞に書いてあったことを訳しただけです)

親切が怒りに変わる時
自らの気前の良さを示すため、惜しみない歓待で客人をもてなすことで知られるサウジアラビア人。ホスピタリティーはもっとも賞賛されるべき美徳であり、主人は客人をもてなすことに大変な名誉を感じます。逆に、彼らの招待を無碍に断ることはひどい侮辱であり、特に今なお伝統を重んじるベドウィン社会では致命的な行為です。

ある日、主人が客5人を銃で脅すという事件が起こりました。客が主人の夕食を断ったからです。実はこの客、ひとりが主人の娘に結婚を申し込みに来たのですが、すでに彼女は他の男性と結婚の約束を交わしていました。すっかり失望し、食事をせずに席を立ち帰ろうとした客の態度が、今度は主人の逆鱗に触れました。主人はライフルを持ち出し、客に銃口を突きつけ無理矢理席に戻すと、おびえる彼らに食事を強要しました。最終的には、誰ひとり血を流すこともなく、つつがなく夕食は終わったそうです。

あさはかな男
紅海の南の町ジザンで、ある男が懲役5ヶ月とムチ打ち150回の刑を言い渡されました。罪状は情報撹乱罪。実はこの男、テロリストに関するウソの情報を当局に持ち込み、報奨金をもらおうとたくらんだのでした。サウジアラビア政府は、テロリスト1名の逮捕につながった情報には100万リヤル (2800万円)、複数の逮捕につながったら500万リヤル (1億4000万円)、テロの実行阻止につながった場合には700万リヤル (1億9600万円) の報奨金を掲げています。この男は友人ふたりの名前を出し、どこそこで怪しい男たちを友人たちと一緒に見た、という風に当局に伝えたのですが、当局の人間が友人に事実確認をすると、あっさりウソであることがばれてしまったのでした。

ラクダ補償金
サウジアラビア国内で、2007年秋に5000頭ものラクダが突然ばたばたと死んでしまったのは、当局の調査の結果、汚染された餌が原因だったと結論づけられました。その後ほどなく、アブドゥッラー国王は畜産家に対し補償金として1頭あたり2万リヤル (56万円) 支給することを決めました。そしてあるベドウィンが、2頭のラクダに対する補償金として4万リヤルを請求したのですが、銀行の手違いで40万リヤルが彼の口座に振り込まれてしまいました。

その日の終わりに銀行側が手違いに気付いた時には、ベドウィンの男はすでに全額おろした後でした。銀行側は彼に返金を求めましたが、彼は他にもヒツジがたくさん死んでいるからお金は返せないとつっぱねました。最後は「証拠を見せろ」と開き直る男に対し、銀行側は40万リヤル引き出しの紙に残された男のサインを警察に持ち込み、男はあえなく逮捕されてしまったそうです。

怒りすぎ
ある男がマッカの銀行でATMからお金を引き出そうとしたところ、どうしたことかカードが飲み込まれたまま出てきませんでした。男は窓口に申し出ることもなく無言で玄関を出ると、駐車場から車を動かし、玄関の前に横付けして誰も銀行に出入りできないようにしました。そして玄関扉に「この銀行とは取引するな」と大書きすると、「カードが戻ってくるまで車も自分もここから一歩も動かない」と宣言し、その場に座り込んでしまったのです。しかしそこにたまたま通りかかったのが、レッカー車に乗った交通警察官。あっという間に車はレッカー移動され、男もそのまま警察に連行されていったそうです。彼のカードはその後どうなってしまったんでしょう。

一番簡単な牢屋の脱出法
マディーナである糖尿病の男が信号無視で捕まり、24時間の留置場拘留を言い渡されました。留置場に入ってみると、他にも大勢の交通違反者でごった返しています。「こんなところに丸1日いるなんて無理だ」 瞬時にそう判断した彼は、友人に電話して糖分たっぷりのフルーツジュースを差し入れてもらうと、一気にそれを飲み干しました。そして仮病を装いその場に大げさに倒れ込むと、係官があわてて駆けつけ、すぐに彼を病院に運んでいきました。病院の検査では案の定かなり危険なレベルの糖尿病と診断されました。警察官はこれ以上の留置をあきらめ、罰金300リヤルを払わせ、その場で彼を釈放したそうです。糖尿病の男にしてみたら得意満面だったかもしれませんが、ちょっと危険すぎるような・・・。

突然の出来事

列車で出産
2008年4月、ダンマンからリヤドに向かう列車の女性専用車両の中で、一人の妊婦が突然産気づきました。最初は困惑するばかりの男性車掌でしたが、すぐに気を取り直し、ファーストエイドキッと酸素ボンベを手渡すと同時に、妊婦の母親には心配いらないと力強く声をかけてあげました (運悪く旦那さんは列車に同乗していませんでした)。リヤドに着くまでたった1時間、まさか車掌も本当に生まれるとは思っていなかったようですが、間もなくその女性は車内で元気な男の子を出産。あわてて車掌はリヤドに電話し、駅に救急車を用意するよう伝えました。リヤド到着後、母子は駅から救急車で病院に運ばれ、この騒動は一件落着となりました。列車内での出産は、これがサウジアラビアで2例目だそうです。

グッドタイミング
マディーナのキングファハド病院で起こった出来事。運び込まれた救急患者に応急処置を施し、なんとか容体が安定したと思ったのもつかの間、今度は治療していた医者が急に心臓発作を起こし、その場に倒れ込んでしまいました。周りのスタッフが急いで医者を抱え上げると、今し方治療したばかりの患者の隣の台に医者の身体を横たえました。手際よく応急処置がとられると、しばらくの間このふたりは仲良く肩を並べていたそうです。

砂漠にハリケーン来襲!?
2008年6月のある日、サウジアラビアでちょっとしたパニック騒動がありました。「アメリカ海軍の情報として、オマーンから巨大ハリケーンがアラビア半島に上陸し、サウジアラビア東部州と首都リヤドが70mmの豪雨に見舞われる」というチェーンメールが出回ったのです。町中を走るタクシーが被害を恐れ早々と店じまい (乗車拒否) を始めると、タクシーで出かけていた人々はますます慌てました。さらに「ハリケーンの前兆としてサンドストームが発生する」という尾ひれがついたため、砂嵐が続いていたリヤドではチェーンメールを信じる人が続出したようです。この時リヤドやダンマンでは視界2km以下という砂嵐の日が続いていたため、サウジアラビア気象庁が「外出を控えるように」という注意を出していたことも、騒動に拍車をかけてしまったようです。

役立たずの男たち
ハーイルのとある公営プールで市民集会が開かれていた時、突然、7才の男の子がプールに落ちてしまいました。おぼれながら助けを求める男の子を目の当たりにして、プールサイドは騒然となりました。男性たちは慌てふためき、ボートのオールを差し出してみたり、シュマーグ (サウジ男性がもれなくかぶっているスカーフ) を何枚もつなげて投げてみたりしましたが、いずれも距離が足りず男の子には届きませんでした。なぜそんなことを? それは、サウジ男性はほとんどみんな泳げないからです。何もできない大人の男たちを尻目に、ひとりの少女がプールに飛び込むと、あっという間に男の子を連れて戻ってきました。男の子の父親は少女に何度も何度もお礼を言ったそうです。

ラクダの復讐
動物が他の生物に対し、進化の経験則に従って特殊な知覚力を持つことはよく知られています。また、下等生物から高等生物までレベルの差はあるものの、それぞれが過去の出来事を記憶し、未来を予測する能力があることもわかっています。サウジアラビアのベドウィン (遊牧民) は誰もが皆、ラクダの高度な知覚力を知っています。ラクダは過去の出来事をよく記憶し、人の顔を覚え、そして将来何をすべきか常に考えていると言います。ある日、マディーナで1頭のラクダが、飼い主の男性の頭に噛みつき、男性が昏睡状態に陥るという事故が起こりました。この男性は生まれたばかりの子ラクダにミルクを飲まれないよう、母ラクダのお腹に布を巻き付け、さらに子供を離れた柵に閉じこめていたのだそうです。ラクダの柵には男性の家族や使用人も出入りしていましたが、母ラクダは確実にその男性をターゲットに定め、そして見事恨みを晴らしたのでした。

外国人

不謹慎
ダンマンのとある警察病院の遺体安置室。遺体を囲んで男が4人。警察官、家族、そして外国人ワーカー2名。家族の男がワーカーに向かって、「どちらが遺体を洗ってくれる?」 とたずねました。埋葬を行う前に遺体をきれいにしてあげるのです。ワーカーはどちらも 「自分がやる」 と言ってゆずりません。もちろんお金をたっぷりもらえるからです。すぐにふたりはとっくみあいのケンカを始めました。そして騒ぎの拍子に、遺体の埋葬に必要な書類までビリビリと破いてしまったのです。これを見かねた警官は、即刻ふたりを逮捕し外に連れ出しました。自業自得。

最後の検問で
マッカの町の手前には、何ヶ所も検問があります。ある検問所で1台の車が止められ、中の外国人男女カップルが警官に質問を受けました。男性はビルマ人、女性はインドネシア人でした。おびえる男性の表情から、警官がさらに詰問を続けると、ほどなく二人が夫婦ではないことがわかってしまいました。実は男性が結婚を申し込んだ時、結婚の条件として女性をマッカ巡礼に連れて行くという約束を交わしたのだそうです。しかし、サウジアラビアではこの行為は完全に違法。しかも女性は不法滞在でした。あわれ二人は警察に連行されていきました。マッカの町に入る、最後の検問所だったそうです。

立派な稼ぎ
マッカで違法な物乞いを取り締まっていた警官が、大いにショックを受けました。ジェッダにのびるハイウェイの入り口には、毎日たくさんの物乞いが集まります。その日も警察の取り締まりチームが現場にパトカーで乗り付けると、物乞いたちは蜘蛛の子を散らすように一気にその場から走り出しました。負けじと警察チームもそれぞれ走って追いかけましたが、すばしこさで物乞いに勝てるわけがありません。ひとりのアフリカ系女性に目をつけた警官も、たちまち距離を離され、結局捕まえることはできませんでした。しかし彼女は逃げる途中に、大事なサイフを落としてしまったのです。肩で息をしながらサイフを拾い上げた警官は、その中身を見て目を丸くしました。中にはなんと14,000リヤルと500ドル (合計47万円) が入っていたのです。予想外の立派な稼ぎに、その警官は一瞬 「転職」 を考えたのだとか。