A Dog's World 

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マリラー 別れの花(タイ映画)

「マリラー:別れの花 (MALILA The Farewell Flower)」は2017年のタイ映画です。末期ガンに冒された男 (ピット)と、彼の元恋人でジャスミン (タイ語=マリラー) の花を栽培する男 (シェーン)。二人の愛と死生観をリリカルに描く作品。

前半は二人の再会から始まります。ガンの治療やセラピー、民間療法などいろいろ試したものの回復しないピットは、バイシー (*注) を作ることで安らぎを得ていました。

*注:バイシー (バイスリ/Baisri) はバナナや蓮の葉とジャスミンなどの花で形作るタイの伝統的な装飾品 (供物) です。人の身体に宿る精霊 (クワン) を呼び戻し、精神の安定を導くと言われます (映画の中でも言及があります)。

娘の悲劇的な死から立ち直ることができず妻も離れていったシェーンは、ピットと再会してつかの間の安らぎを得ますが、ピットの病気を知り、彼の回復 (または来世での健康) を祈るため出家を決意します。出家式の際には自分のためにバイシーを作ってくれと頼むシェーン。

ピットはシェーン用のものを含め、前半部分でいくつかバイシーを作りますが、その工程が芸術的な美しさです。細かく丁寧な作業の連続で、葉を正確に折りたたみ、小指の先ほどの小さな花を成形してから糸で葉に縫いつけるシーンは、観ていて思わず息を呑んでしまいます。

後半はシェーンが出家し、指導者の僧侶に連れられて地方の村を托鉢して周ります。森の中に蚊帳を吊って野宿するのですが、この一帯の森では戦闘が続いているため、あちこちで死体を見かけるとのこと (先輩僧侶は元軍人)。(※ナブアを想起させます)

死体を見つけたらじっと見つめて脳裏に焼き付けるよう言われたシェーン。その機会はすぐにやってきて、言われたとおり、黒ずんで硬直した裸の死体を見つめますが、ウジ虫が這いずり回るその様に思わず嘔吐してしまうのでした。

さらに森で何日か過ごしたある日、シェーンはまた死体を見つけました。じっと見つめていると、ゆっくり死体が動いたかと思うと、目の前にピットが立ち上がっていました。ピットを抱き寄せ詫びを言うシェーン。ピットは安心したように力なく崩れ落ち、シェーンも一緒に倒れこみました。

そうして気づくと、ピットは横たわる死体に寄り添うように寝てしまっていたのでした。顔に赤黒い体液がべっとり付着していましたが、シェーンは押し黙り、思いつめたようにじっと死体を見下ろすのでした。

場面は変わり、シェーンが森の小川で僧衣を脱ぎ、沐浴するシーンで物語は幕を閉じます。

最後にピットが現れるシーンですが、おそらくこれでシェーンはピットが亡くなったことを悟ったのでしょう。自らの功徳が足りずピットを死なせてしまったことを詫びたのだと思います。

なお、タイの僧侶は死体を見つめることで、生きているものは必ず死ぬということを意識に植え付けるのだそうです (昔はよく行われた修行だそうです、今でもあるそうですがホントかな)。

同性愛 (ゲイ)、僧侶、カルマ、ホラー (死体)、緑 (森)、水、といったタイ映画に特徴的な要素がいっぱいの作品。バイシー (バイスリ) に興味がある方は必見。でも後半相当グロいです。あ、前半もシェーンの娘さんがニシキヘビに巻き付かれて絶命するというなかなかのシーンも。

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