「チョコレートファイター」は2008年のタイの傑作アクション映画です。タイではあの「マッハ!!!!!!!!」の動員記録を塗りかえたそう。監督はマッハと同じプラッチャヤー・ピンゲーオ。主役に数年の準備期間を課したのも同様。
映画を観はじめて誰もがまず思うのは、「あれ?ディスクを間違えた?」。阿部ちゃんの一人語りで幕を開けるストーリーは、およそDVDパッケージの可憐な少女ファイターとは結びつかず、一瞬の混乱を引きおこします。
しかしすぐに舞台がタイで、どうやら阿部ちゃんはヤクザの抗争に巻き込まれているようであり、さらに阿部ちゃんがタイのヤクザの情婦と道ならぬ関係に陥った末に生まれたのが主人公の少女ゼン (ジージャー・ヤーニン) ということが10分弱でわかりひと安心。
ところで阿部ちゃんの全身バックヌードは必要だったのかなと、阿部ちゃんが日本に帰国後もしばらく悩むことになりますが、こんなつまらないことを考えてしまうほど、最初はちょっとストーリーが動きません。いつアクション映画になるのかなと。
次第に少女ゼンは格闘に目覚めていきますが、ちょっとこうリズムが悪いというか、観ているこちらもいまいち乗り切れない。けれども物語は中盤以降、どんどん激しい格闘が繰り広げられていき、最後は凄まじいとしか言いようがない、痛々しい戦いになります。
マッハも若干そうでしたが、香港のカンフー映画と違って、絶対的なコミカルさ、まるで演舞のような型の美しさがありません。ひたすらリアル、というかやられた方が地面に落ちたり鉄柱ににぶつかったりしているのが本当に痛そう。
見るからに華奢なゼンの繰り出すキックにあまり重さが感じられず、そここまでダメージを与えているようには見えない、という意見もあるかと思いますが、逆にマッハのトニー・ジャーより遠慮なしに急所に当てているんじゃないかと思え、むしろ効きそうなのはこちらの方かも。
大クライマックスの前に阿部ちゃん再び登場、からの大立ち回り。日本刀でバッサバッサとタイのヤクザをなぎ倒していきます。殺陣のわりに上体が起きているのは、時代劇ではなくヤクザだからあえてそうしたのだそうです。阿部ちゃんカッコイイ。
そして大クライマックス。建物の2階、3階の外壁で戦うシーンは、良くて大怪我、下手したら死人が出るようなシチュエーションで、なぜこうしたのかと製作側の行き過ぎた本気 (=狂気) を感じる部分。やられた敵は当然みんな下に落ちていきますからね。
ということで、チョコレートファイターは少女が悪党をこてんぱんにやっつけていく爽快さを感じるより前に、やられ役に同情してしまう映画なのでした。みんな早く大部屋俳優から脱してほしい。
エンドロールで流れるNG集というか "俳優ケガで撮影ストップ集" は、もう観ていられませんでした。やられ役に負けず劣らずジージャーも生傷が絶えなかったようだし、この映画にかける意気込みはすごかったんでしょうね。間違いなく伝説の1本です。