「The EYE【アイ】」は2002年の香港・タイ・シンガポール合作のホラー映画です。監督のパン兄弟は香港生まれの中国人ですが、主にタイで映画を撮っていて、先に紹介した「レイン (1999年)」もパン兄弟の作品です。
アイも前半は香港ですが、後半の核心部分はタイに舞台を移します。2歳で失明したマン (主人公)。20歳になった彼女は角膜移植手術を受け視力を取り戻すが、次第に見えないものが見えるようになり・・・。
薄暗い廊下の奥に、病室の片隅に、エレベーターの角に、この世のものではないものが浮かび上がり、ヒタヒタと近づいてくる。脅かしも絶叫もありません。ゾクッと寒気がする作品です。ジメッとした空気感と精神に来る怖さはまさに正統派アジアンホラー。
中盤でマンに関する大きなトリックが明かされると (よく出来た脚本!)、そこから舞台をタイに移します。マンは危うく命を落としそうになりながらも元凶を取り除くと、一件落着かと思いきや、最後にどんでん返しが。
最後はかなり凄惨でグロテスクなシーンもあります。ここはゴア大好きなタイ (で活躍する監督) の本領発揮といったところ。しかし絶望で終わったかに見えた物語は、意外にも前向きな主人公のモノローグで幕を閉じました。
間違いなくホラー映画なのですが、社会派ドラマや家族ドラマのような味わいのある作品です。元凶をたどるとそこには深い悲しみがあり、それを乗り越えるためには大きな愛 (許し) が必要でした。
当時映画を観た時はかなり怖くて終始ゾワゾワしていた記憶がありますが、今回観なおしてみたところ、脳腫瘍の少女、通信簿小僧、果ては首吊シーンまで、各エピソードでちょっとずつ涙をこらえるほどでした。「世界は美しい」という言葉も深い余韻を残します。