「ブンミおじさんの森」は2010年公開のタイ映画。カンヌ映画祭でパルムドールを受賞しています。受賞のことだけは知っていましたが、ストーリー含めほぼ予備知識ゼロで鑑賞。不思議な映画でした。
カメラを固定してショット内の構図を変えず長回しで撮る映像は、観ているこちらにも没入感があり、あたかも自分がそのシーンを直に観ているような感覚に陥ります。
暗い夜のシーンも多いのですが、とくに森の映像が漆黒から深緑まで微妙なグラテーションを奏でており、けっして目を飽きさせません。また音響は虫の音や鳥のさえずりなどほぼ自然の音のみ。
冒頭の水牛のシーンで「お、これは!」とピンときた人は間違いなく全編楽しめるでしょう。逆にここですでに眠くなったというレビューも目にするので、観る人を選ぶ映画かもしれません。
物語は一見スローテンポですが、序盤から死、精霊、前世、ナマズと王女のXXなど摩訶不思議な要素が矢継ぎ早に織り込まれ、終盤はイデオロギーから仏教まで飛び出し実ににぎやか。「ナンダコレハ?!」と興奮冷めやらぬままあっという間に観終わりました。
直感的に感想を言うなら、「リリカルでマジカルでプリミティブな映画」。うん、わかったようなわからないような (←いやわかっていない)。少なくとも自分は2時間弱まったく飽きませんでした。エンディングの曲がくるりっぽいのもツボ。
映画の舞台がイサーン (タイ東北部) のナコンパノム県ナブア村で、ブンミおじさんが自分のカルマについてさらっと語ったシーンが気になり、タイの歴史をちょっと深堀りしてみたところ、そこには今まで知らなかったことが。
1965年8月7日にナブア村で起きた最初の衝突。ブンミおじさんの行方不明だった息子の名前がブンソンであること、ブンソンは森に入っていったのだということ、そして真っ赤な瞳の色。歴史を知ってから映画を観ればまた異なる感情が生まれます。
ただし監督は、あまり理屈っぽく考えず素直に観て感じてほしいそうです。ナブア村の歴史を知りたい方はコチラを (英語のウェブサイトです)。彼らの側からの発信は貴重かと。(※今はリンクに飛べません、サイト閉鎖?)
ちなみにイサーンといえば今でもタイの中でとくに貧しい地方と言われていますが、映画にあったように農作業ではラオスやミャンマーからの出稼ぎ労働者がたくさん働いています。逆にタイ人の働き盛りは都会 (バンコク) に出稼ぎに行っているわけで、この点ちょっと複雑。
※同じ監督の作品「トロピカル・マラディ」の感想はコチラ