A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

メモリア(アピチャートポン監督作品)

MEMORIA (メモリア)」は、2021年の泰古仏独墨中合作のドラマ映画です。監督はタイ人のアピチャートポン・ウィーラセータクン、主演はティルダ・スウィントン。第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、審査員賞を受賞しました。

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【あらすじ】ある日の明け方、大きな爆発音に驚き目覚めたジェシカ (ティルダ・スウィントン) は、その日以来、自分にしか聞こえない爆発音に悩まされるようになります。

呼吸器疾患で入院している姉を見舞うためボゴタを訪れたジェシカは、建設中のトンネルから発見された人骨を研究している考古学者のアグネスと親しくなります。また、知人の紹介で音響エンジニアのエルナンを訪ね、爆発音を再現 (合成) してもらいました。

アグネスの発掘現場の近くの町で、ジェシカは庭先で魚の鱗取りをする男エルナンと出会います。エルナンは石ころの記憶を読み取りジェシカに伝え、ジェシカは死について語りました。そうして一日の終わりに、ジェシカは目の醒めるような感覚に襲われるのでした。

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アピチャートポン監督といえば、2004年「トロピカル・マラディ」がカンヌ映画祭で審査員賞、2010年「ブンミおじさんの森」はタイ史上初のカンヌ映画祭パルムドール (最高賞) を受賞するなど、世界的にも高名な映像作家です。本作は監督が初めてタイ国外で製作した作品。

上記作品でも特徴的な、定点カメラで長回しする撮影スタイルは本作にも見られ、人を写すシーンだけでなく、随所で自然 (森、川、雨、風、雲、虫や鳥の声など) を写し撮っています。退屈な画面に見えて、実はじっと見続けていると意外とにぎやかな構成要素 (雲の動きや雨の音の変化、虫の声の強弱など) があることに気付かされます。

世界の主要紙に掲載されたレビューは、曰く「静かな写実主義と神秘性を排した映画言語、この監督は、生者と死者、過去と現在、現世と異界が隣り合わせに存在する世界観を完全に観客に納得させることが出来る」だそうです。単語の解釈は人によって違うかもしれませんが、自分はこのレビュー、だいたい腑に落ちました。

ブンミおじさんやトロピカル・マラディを面白い、興味深い、映像がいいなどと好意的に思った人なら、本作も十分面白いと思います。むしろタイのカルマ思想や歴史問題がない分、外国人にもわかりやすいのかなと。

途中で「え?そういうことか!」と急展開に気づいたと思ったのもつかの間、やっぱり最後の方は「え、SF!?いやどういうこと?」と自分が混乱していくのが面白かったです。

ひとつ印象的なシーンが。ジェシカが車で山道を運転中、検問で止まった後また走り出していくシーンですが、カメラは助手席に固定、ジェシカの横顔と、バックに遠くの山々が広がっています。開けた窓から吹き込む風が、時折ジェシカの髪を乱れさせます。

背景の動きと風の吹き込みとエンジン音から、徐々にスピードが上がっていくのがわかるのですが、しばらくすると、ちょっと山道とは思えないような、尋常ではないスピードになるんです。でもジェシカは涼しい顔。ここ、なんだかすごく怖かったです。冷や汗が出そうな緊張感がありました。

結局、どこまでが現実世界で、本当に実在していたのは誰だったんだろう。。実は全部、二人目のエルナンだったんじゃ・・・。いやあ、観るたびに解釈が変わりそうです。またも見事に心を持っていかれました。

エンドロールは音楽ではなく、トロピカル・マラディと同じく、自然の音。あちらは虫の声、本作は雨の音でした。これがまた実に味わい深かったです。

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