本日 (3月16日) は多くのイスラム諸国でラマダン月27日であり、この日は「御稜威 (みいつ) の夜」と呼ばれ、一年でもっとも神聖な夜とされています。
アラビア語で「ライラト・アルカドル (Laylat Al-Qadr)」。神の力が最も強く現れる夜、運命が定められる夜、祈りが特に受け入れられる夜です。
伝承の起源としては、この日の夜、預言者ムハンマドに対して、天使ガブリエルが最初の啓示を与えたと伝えられます。
コーランの第97章には、「カドルの夜は千ヶ月にも優る (千ヶ月=約83年) と記されており、この夜の礼拝は83年分の礼拝に匹敵すると考えられています。

この夜、イスラム教徒は夜通しの礼拝・コーラン朗読・罪の赦しを祈る・喜捨 (寄付) など、多くの人がモスクや家庭で徹夜礼拝を行います。
イスラムの民間伝承では、この日に起こる奇跡的な事象について、天使が地上に降りる、世界が静寂になる、朝の太陽が柔らかい光を放つ、といった兆候が語られます。
ただしこれは信仰的な象徴で、カトリックのような「公式奇跡認定」はありません。実はウズベキスタンなど中央アジアには、関連した伝承がいくつかあります。
■天使が地上に舞い降りる
中央アジアではこの夜 (ライラト・アルカドル)、天使が地上を巡り、祈っている人の家に入るため、その家が光に包まれる、と信じられています。
なのでこの日、中央アジアの人々は、家を掃除する、家の灯りをつける、夜通し起きて祈る、といった習慣があります。
■聖者の墓が願いを叶える
中央アジアでは聖者の墓が奇跡を起こすと信じられています。有名な聖者として、どちらもウズベキスタンのブハラを中心に中世の中央アジアで活躍した、アフマド・ヤサヴィー (宗教詩人)、バハウッディーン・ナクシュバンド (著名なスーフィー) があげられます。
巡礼者は聖者の墓の周りを回りながら祈ります。伝承では、病気が治る、子供が授かる、夢に聖者が現れる、などの奇跡が語られます。
■不思議な「聖なる木」
中央アジアには、布を結びつける木があります。願い事をするとき、木の枝に布・糸・ハンカチなどを結びます。これはイスラム以前のシャーマニズムの名残と考えられています。
■聖者が眠る土地は守られる
伝承では、ある聖者が埋葬されると、その町が災害から守られる、戦争が起きない、水が枯れない、と信じられています。
一例として、ウズベキスタンのサマルカンドにあるシャーヒ・ズィンダ廟群。ここには預言者の親族が眠るとされ、「生きている王の墓」という意味の名前がついています。

■夢で未来が示される
中央アジアでは夢がとても重視されます。伝承では、聖者が夢に現れる、夢で巡礼地を教えられる、夢で病気が治る方法を知る、といった話が多く語られます。
■40という神秘の数字
中央アジアでは「40」は神聖な数字です。40人の聖者、40日の修行、40日後に魂が旅立つ等々。この考えはイスラム神秘主義 (スーフィズム) と遊牧文化が融合したものです。
中央アジアで最も不思議と言われる伝承は、「見えない40人の聖者 (アブダール)」です。彼らは世界を守る存在で、誰にも正体が分からない普通の人として暮らしている、と信じられています。
なお、アブダール (Abdāl) はアラビア語で「交換された人々」を意味する「バダル」の複数形です。一人が亡くなると、即座に別の聖者がその地位を引き継ぐ (交換される) ため、常に一定数が存在するとされています。