カタールで行われているサッカーワールドカップの場外で、LGBTQ論争が起きているとのこと。LGBTQを容認しないカタール (含めイスラム諸国全般) を、主に西側諸国が批判している構図ですね。中東になじみのある自分には「またか」といった感じですが、西洋社会で近年ますますイスラム嫌悪が高まっているようにも思え (その理由もわかりますが)、宗教がバックグラウンドにある限り、これはきっと永遠に結論が出ないだろうなあと。ということで、2度目のサウジアラビア滞在中に書いた過去記事を、参考までに。
どっちもどっち?
フランスで医学を学ぶため大学留学が決まっていたサウジアラビア人女学生が、大学構内でのヒジャーブ (スカーフ) 着用を禁ずると言い渡されたため、留学を取りやめることを決心しました。
フランス大使館によれば、医学系の学校で女子生徒がヒジャーブをかぶることは、フランスの法律で禁止されているのだそうです。病院スタッフも同様にヒジャーブ禁止。もちろん、構内から外に出る時はかまいません。
これはイスラム教徒だけでなく、全ての宗教信者に対して適用されます。つまり、医療施設内部ではいかなる宗教色も排除するということ。他にも同様の法律を持つ国はあるそうです。
この女学生は留学のためにこれまで約20万円費やしていますが、お金は問題ではないとしています。「ヒジャーブは私の信仰の一部であり、決して無視することはできないもの。フランスへの留学生が大学構内でヒジャーブを着用する権利が、きちんと二国間で合意され保証されるべき」 とインタビューに答えました。
また別の留学生は、最初にフランスに語学留学した際にこういった問題を知り、大学で薬学を学ぶ現在はヒジャーブの代わりにバンダナを巻いて髪を隠しています。これも彼女に言わせれば「Bizarre (変てこ)」なんだとか。
現地のイマーム (イスラムの宗教指導者) は、ヒジャーブを取ることもやむを得ないという勧告を出しましたが、それに反発して留学を中断してサウジアラビアに戻った女性もいるそうです。
フランス留学中の女子学生がサウジアラビア大使館に集団で抗議した際は、逆に大使館スタッフからフランスの法律を遵守するよう諭されたそうです。
マッカ (メッカ) の勧善懲悪委員会はこの問題を受けて、「これは西洋社会が同性愛も含めて "自由" を押しつけていることに他ならない。ヒジャーブを禁ずることは彼ら自身の主張に矛盾している」とコメントしました。(ヒジャーブを着用する自由はないのかということでしょうか)
サウジアラビアはガチガチの宗教国家で、法律から生活の規範まで、すべてがイスラム教を拠り所にしています。そういう環境で育った国民は、当然自らの信仰を貫くことに全身全霊を捧げることになります。
一方のフランスという国は、個人に信教の自由がある反面、国家としての非宗教性についても憲法に明記されています。つまり、フランス国家はいかなる宗教からも独立していなければならない、ということです。このことから、公共の病院や公教育の場では宗教性が厳格に排除されます。
とはいっても、実際には目立たない程度ならいいらしいです。例えば公立学校では十字架のペンダントをしているスタッフもいるそうです。十字架が良くてヒジャーブがダメと言うんだったら、それはイスラム教徒は怒るでしょう。
しかも髪 (および身体の魅力的な部分) を隠すことはコーランに書かれている絶対的な神の言葉なわけで、個人の自由や他国の法律云々とは次元が違って、世界のどの国にいようと守らなければならないわけです。
個人的には、女性がスカーフをかぶっているのを見て「うわっ!イスラム教徒だ」なんて思うことはまったくありませんし、そこにそれほど強固な宗教性を感じることもありません (見慣れているだけかも)。
ただ、雪景色のスイス、グリンデルワルドで全身真っ黒のアバーヤ (黒い外套/チャドル) を着た女性を見た時は、「ここまで来てそれかよ」と少々ゲンナリした覚えがあります。顔や指先まですべて隠しているとさすがに。。
いずれにしても、フランスもたかがヒジャーブでごちゃごちゃ言わなくてもいいのに、というのが率直な感想です。どうせ髪はキャップで隠すわけですから、多少覆う面積が広くなるだけだし。
サウジアラビアが在留外国人女性 (非イスラム教徒) にも外出時にアバーヤの着用を強制しているのと、実は同じことなのかもしれません。「脱げ」と「着ろ」の違いだけであって。まあ、どっちもどっちなのかな。。
■ローカル新聞の風刺漫画
ビキニの女性「目以外すべて隠している、なんてひどい男性社会!」
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