A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

Citizen Dog(タイ映画)

「シチズン・ドッグ」は2004年のタイのロマンティック・コメディ映画です。登場人物は奇妙な人間ばかり、ブラックユーモアが散りばめられ、コミュニケーション不全を描いた本作は、シュールなストーリーとゆるめなコメディ、そしてこだわりの画作りから、タイの "アメリ (2001年仏作品)" とも言われています。

アメリもそうですが、"グランド・ブダペスト・ホテル" や、"ナポレオン・ダイナマイト (バス男)"、"ゴーストワールド" といった作品が好きな人なら、きっとドンピシャな作品でしょう。ちなみに "Citizen Dog" は "市民ケーン (Citizen Kane)" からなんでしょうか。

ストーリーの主軸は "尻尾がない" ポッドが、夢に向かって全力で突っ走るジンに恋をするお話です。アメリと違って本作では主人公ポッドが一番 (比較すれば) マトモな人間です。その分ヒロインのジンがだいぶ突き抜けている。ただし他のキャラがさらに突き抜けているので、二人のロマンスの行方はけっこう普通のラブストーリーに思えたりもします。

ポッド (主人公)
・田舎から上京し缶詰工場に就職
・指を切断し缶詰になるが後に回収
・警備員に転職しジンと出会う
・ジンにバス通勤を勧めるも断られる
・ジンのためタクシー運転手に転職
・ゾンビライダーの勧めでジンに告白
・ジンにふられる (底辺の二人では✕)
・自殺を試みるもヤモリに止められる
・ジンに尽くすがやっぱりふられる
・バンコクでセレブになる (尻尾がない)
・ペットボトルの山の頂でジンに告白
・くどくど言うジンの口をキスでふさぐ
・ようやくジンと結ばれる (結婚)

ジン (ヒロイン)
・ビル清掃のメイド (強迫性障害)
・外国語で書かれた白い本を携帯
・白い本を読めるようになりたい
・ピーターに出会い環境活動を開始
・ペットボトルをひたすら回収する
・家の前にペットボトルの山ができる
・ポッドに告白されるが断る
・ピーターに再会、白い本の意味を知る
・すべてに絶望しポッドの元を離れる
・ポッドの告白を受け入れる (結婚)
・プラスチック工場に就職、幹部に昇進
・無理な経営をして工場を閉鎖に追込む
・ポッドの子供を妊娠中

注:指切断
同じイワシの缶詰工場で働くポッドとヨッドは、作業中に指を切断→缶詰として出荷される→缶詰を回収し指装着→なんだか違和感→指が入れ違っていた→ヨッドの指を引っこ抜く→無事元サヤに、という経緯から友人になりました。ヨッドは満員のバスで通勤中、毎日身体を押付けあったムアイと恋仲に (後にふられる)。ポッドにもジンと一緒に満員バスに乗るよう勧めました。

注:ゾンビライダー
ポッドが乗っていたバイクタクシー (いつもノーヘル)。ある日ヘルメットの雨に打たれ死亡するも、職業意識が強くゾンビライダーとして復活 (未だノーヘル)。「人間いつ死ぬかわからない」と、ジンに告白するようポッドに助言。

注:ヤモリ
ポッドの上京時、「バンコクで働きだしたらお前にも尻尾が生えるぞ」と予言したポッドのおばあちゃんが死後に転生した姿。次はポッドの子供に転生する気まんまんで、ラストシーンではジンのお腹の中にいると思われる。

注:尻尾
推測ですが、夢や希望を失った人には尻尾が生えるという設定なのかなと (そういう両親から生まれた子供にも生えている)。ポッドはジンを追いかける気持ちが強く、尻尾が生えないままだったのかも (バンコクでただ一人尻尾がない)。もしくは、尻尾=犬=誰かの下で従順に (自分を押し殺して) 生きる人々、の比喩? タイトルもタイトルだし。

注:白い本
昔ジンが拾った本。外国語で書かれていてジンは読めない。会社の外国人社長に聞いても答えてくれなかった。いつか本の内容を読み理解することがジンの夢となったが、後にピーターが教えてくれた本の正体は、イタリア語で書かれたゲイのポルノ小説だった。

注:ピーター
バンコクの路上でビラ配りしていた白人 (警察が来ると逃げる)。ジンと同じ白い本を持っていた。本当の名前はアンドレ (ピーターはジンが唯一知っていた外国人の名前で勝手に命名した)。ジンは彼を環境活動家だと思い込み、その後のニュース映像から彼が活動中に機動隊に殺されたと勘違いし、彼の意思を継ぐべくペットボトル回収にのめり込むも、後にすべてが勘違いだったとわかり、ジンは絶望する。

注:ペットボトルの山
ジンが回収したペットボトル。ジンが洗って同僚に再利用を促すも誰も使ってくれず、家の前に積まれていった。物語後半、バンコクの高層ビル群を見下ろすほどの高さに。後に若者のデートスポットとなった。

作中、他にもいろいろ個性的な面々が登場しますが、中でも印象的だったのがベビーマムとトンチャイ。ポッドが運転するタクシーの乗客でした。二人の関係は、まあ素敵と言っていいんでしょうかね。二人とも幸せそうだし。

マム
・自分を22歳だと言う8歳の女の子
・哺乳瓶片手にタバコを吸っている
・毎日ゲームセンターに通う
・好きなゲームは殺戮ゲーム
・両親は寡黙でマムと話をしない
・話し相手はトンチャイしかいない
・口が悪くトンチャイとは喧嘩ばかり
・トンチャイと後に結婚

トンチャイ
・クマのぬいぐるみ
・動くし言葉を話す、口が悪い
・マムを密かにベビーマムと呼ぶ
・ヘビースモーカー
・マムによく捨てられている
・マムによく回収されている
・マムと後に結婚

その他の見どころとしては、役柄的にヒロインのジンがあまり衣装が変わらないので、その分ポッドがとっかえひっかえいろんなTシャツを着ているのが楽しいです。いかにもタイという安っぽいTシャツが最高。

また、劇中たくさんポップスが流れるので、それも耳触りが良く、映画を楽しいものにしています。あとはポッドの家の前で子育て中の犬がかわいいです。ストーリー上、画面の全員が青いドレスを着ているとき、犬たちも同様なのがキュート。

ということで、これはなかなかの迷作、いや、真面目に名作です。

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