A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

ハノイで食べたモツ料理(フォーソトバン再考)

ハノイに来てからわりとよくモツを食べています。豚の茹でモツなんてちょっと臭いそうな気もしますが、こちらのモツはぜんぜん臭くありません。これは地味にすごい。

アパートの近くにあるお店 Quán lòng Bà Tình (Map) で食べた豚モツ粥 (cháo lòng)、モツとハーブの炒め物、そして茹で豚モツ、どれもなかなか美味しかったです。

ベトナムでは揚げ魚をよく食べますが、先日いただいた揚げ魚の鍋料理は、魚の胃袋らしきものが載っていました。初めて口にしましたが、コリコリしていてまさに珍味。(写真のお店はコチラ)

フォーの中でも今のところ一番のお気に入りはフォーソトバン (phở sốt vang)。トロトロになるまで煮込まれた牛肉・牛モツがたっぷりかかっています。味に深みがあって、個人的にはモツ料理としても上位に入ります。(写真のお店はコチラ)

実はこのフォーソトバン (フォーソットヴァン)、必ずしも牛モツではなく、どちらかと言えば牛肉の方が本来なのかもしれません。上の写真は牛肉・脂身・モツが満遍なく。次の写真はモツ (胃袋) 主体、肉とモツ半々、肉主体、とお店によっていろいろです。

通常のフォーソトバンは、牛すね肉などを赤ワインと香辛料で煮込んだ、いわばベトナム版のビーフシチューをフォーに合わせたような料理です。

一方、上の写真のうちモツが大量に入ったものは、お店によってはフォーロンボー (phở lòng bò=牛モツフォー) という別名の場合も (上のお店はどれもフォーソトバン)。

ある有名店のフォーソトバンは、「牛すじを柔らかく煮込んだもの」が特徴とされ、「生姜・トマト・胡椒が香る」と説明されています。

また別の料理解説でも、牛肉 (thịt bò)・牛すじ (gân bò) を大きめに切って赤ワインで煮込むのが、フォーソトバンの基本形として示されています。

しかし実際のところ、牛モツ入りのフォーソトバンは多くのお店で確認されています。中には「モツばかりで肉はわずかだった」といったレビューも。

「phở lòng bò ≠ phở sốt vang」なのですが、お店によっては、「phở sốt vang + lòng bò」という組み合わせが成立しているわけです。これはなぜか。

ソトバンはそもそも長時間煮込む料理なので、牛すじやゼラチン質の多い部位、牛の胃や脂の付いたモツなどは非常に相性がいいと言えます。

そして通常のフォーよりもソトバンの濃厚でスパイスの効いたスープの方が、モツ特有のにおいにも負けません。

そのため「牛すじを使ったフォーソトバン」から、さらにゼラチン質・内臓系の部位を増やしたお店が出てきたのでしょう。そしてそれが美味しいから広まったという。

* * *

2000年代初頭に刊行された「Bách khoa thư Hà Nội (ハノイ百科事典)」では、フォーソトバンをハノイのフォーの一種として取り上げ、「フォーソトバンは通常の茹で牛肉や生肉の代わりに、牛肉のソトバンを入れたもの」という説明をしています。

また、ベトナムの料理解説ではしばしば、「bò sốt vang ≒ boeuf bourguignon/Beef au Vin」とされます。牛肉のソトバンはもともとフランスの料理というわけです。

ブフ・ブルギニョン (牛肉のブルゴーニュ風) は、牛肉・赤ワイン・玉ねぎ・にんじん・ハーブ・ベーコンなどを長時間煮込む料理です。

一方ハノイのソトバンは、八角・シナモン・カルダモン・生姜・ニンニク・トマト・ヌクマムなどが入ってきます。次の写真はバインミー・ソトバン。

ソトバンが牛肉のワイン煮込みかと言われたらまったくそんな風味はないのですが (むしろ中華っぽい)、でもこれはこれで美味しいですよ、お肉も柔らかく煮込まれていて。

フォーソトバンは、中国系料理 (米麺・肉・スープ) に、ベトナム (香草・ヌクマム・香辛料) とフランス (牛肉・ワイン煮込み) の文化が融合した産物なのでしょう。

外来料理をそのまま受け入れるのではなく、ベトナムの料理体系に取り込んでさらに美味しくしてしまうという、ベトナム料理文化の好例ではないかと思います。