■米とコム
このところベトナムのお米料理、コムザン (Cơm Rang: 炒飯) とコムタム (Cơm Tấm: 砕米飯) を続けざまにいただきました。
「あれ?もしかして "コム" って "こめ" ?」ふとそんなことを考えたのは、きっと自分だけではないはず。
そんなわけでチラッと調べてみたところ、ぜんぜんそんなことはありませんでした。でもいくつか面白いことが。
そもそも米 (こめ) という単語、つい中国伝来と思いがちですが実際は和語で、語源は小さな実 (こみ) もしくは目を凝らして見る (小見=こみ) だったのだとか。
一方で、もみ殻が実を込める (詰める) 状態を「こめ」と呼んだことから、古代日本では稲の実「米」は「よね」読みだったものが、次第に「米=こめ」になったという説も。
ベトナム語のコムは、漢字の「粓 (Gan)」、ガン/カン⇒コム、という音変化でしょう。たまたまコメに似ていたようです。意味は生米ではなく、炊いたご飯の方です。
■米とライス
茶という単語が T (Tea) と Ch (Cha) に分化して世界に広がっていったように、あるいは死という単語が M-t (Mort等) と D-t/T-d (Death等) に分かれたように (アジア圏ではS/Ch/Tも)、コメとライスには何か関係があるのでしょうか。
調査不足は否めませんが、結論から言えば、これはまったく関係ありません。ライスは系統がはっきりしていて、これはインド起源だそうです (稲=米)。
サンスクリット語 (vrīhi/ウリヒ) ⇒古代ペルシア語 (vrinjis) ⇒中世ギリシャ語 (oruza) ⇒ラテン語 (oryza) ⇒古フランス語 (ris) ⇒英語 (rice) だそう。
稲の学名 Oryza sativa も同じ語源です。ちなみに現代アラビア語ではウルズ (uruz)、ウズベク語ではグルチ (guruch)。実は「うるち米」もお仲間?

ヨーロッパの言語とくらべると、アジアはバラバラですね。唯一、タイとベトナムがおそらく同じ系統。
・日本語 :こめ (kome)
・中国語 :米 (mǐ)
・ベトナム語:gạo
・タイ語 :ข้าว (khao)
・クメール語:បាយ (bay)
・英語 :rice
・フランス語:riz
・スペイン語:arroz
■米の解像度
日本は古来お米を作ってきた国ですから、日本語では稲・米・籾のようにパーツを表す単語があります。
米 (こめ) も炊けば飯 (めし)、その前に籾 (もみ)・玄米・発芽米・精米といった段階を表す単語もあり、非常に解像度が高い。
さらに日本語では、稲の畑である田んぼの状態を、稲の生育に合わせて細かく表現します。墾田・乾田・水田・黒田・青田・穂田・刈田など。
収穫後は、冬田・雪田なんていう日本ならではの表現も。東南アジアでは田んぼが雪で覆われることなんてありませんからね。
しかしこの点はベトナムも負けていないはず。ぜんぜん調べきれていませんが、少なくとも次のような単語はすぐ出てきます。きっと田んぼの状態もいろいろあるのでしょう。
・lúa = 田んぼの稲
・thóc = 籾
・gạo = 精米された米
・cơm = 炊いた米/ご飯
(Cơm Tấm=砕米飯)
(Cơm Rang=炒飯)
■飯=炊いたお米・食事
炊いたお米をご飯 (ごはん) と言いますが、「ご飯食べた?」という質問に対して「いいえパスタを食べました」などと答える人はいません。
ご飯とは炊いたお米と同時に食事そのものでもあります。今日のご飯は何にしようと考える時、米・麺・パンは同列です。ベトナム語のコム (Cơm) も同様だそう。
Ăn cơm chưa? は直訳すると「ご飯食べた?」ですが、実際の意味は「食事は済んだ?」、もっと言えば「ちゃんと食べてる?」という近況を問う声にも。
タイ語の「กินข้าวหรือยัง? (ギンカーオ・ルーヤン?=ご飯食べた?)」は定番の挨拶で、もはや「元気?」くらいの意味ですが、「ご飯を食べられる=ちゃんと暮らせている」ということなのでしょう。
ちなみに自分は、「ご飯が炊けた」じゃなくて「お米が炊けた」だろ、なんてことを考えるひねくれた子供でした。(ステーキが焼けた⇒ステーキができた or お肉が焼けた)
「ご飯が炊けた=食事の準備ができた」と考えればまあ納得ですが、お米が炊けてもおかずがまだなら違うんですけどね。(←ひねくれ継続中)
■米と諺 (ことわざ)
日本の諺には米 (稲作) に関したものも多いですが、どちらかと言えば人の生きる姿に重ねる表現が多いのかなと。自分も有名なものしか知りませんが、例えば;
・糠に釘
・我田引水
・青田買い
・実るほど頭を垂れる稲穂かな
一方ベトナムは、水や土地の価値から人生訓まで、幅広いラインナップです。「衣食足りて礼節を知る」に非常に近いことわざも。
日本が比較的水に恵まれた島国だったのに対し、ベトナムは常に水問題があったのかもしれません。また外敵の侵入もありましたから、土地は本当に大事。
・Nhất nước, nhì phân, tam cần, tứ giống
(一に水、二に肥料、三に勤勉、四に種)
・Tấc đất tấc vàng
(一寸の土地は一寸の黄金)
・Có thực mới vực được đạo
(まず食べてこそ道徳も語れる)
・Cơm không rau như đau không thuốc
(野菜のないご飯は薬のない病気のようなもの)

以上、こめ (米) とコム (Cơm) からあれこれ考えたハノイの夜。