ベトナム料理の代表格、フォー。比較的歴史の浅い料理で、登場したのはフランス領インドシナ時代の20世紀初頭、ハノイないしナムディンで生まれたとする説が有力です。
今は全国的に食べられますが、もともとは北部の食べ物。北 (ハノイ) のフォーはシンプルな見た目と味わい、南 (ホーチミン) はトッピングも多くスープは甘め、香辛料が強めだそう。
これまでハノイで10杯以上フォーを食べてきましたが、実は未だに評価ポイントがよくわかりません。何をもってして「美味しい」と言えるのか。
今まで食べたフォーは、お店によって値段も倍の差があります。果たして値段の差が味の違いとして如実に現れているものなのか (写真は安い方:1杯35,000ドン/210円)。

似たようなところで、日本のうどんとくらべてみます。印象として、日本のうどんが「麺の料理」であるのに対し、フォーは「スープの料理」に近いのかなと。
うどんを考えると、コシ・のどごし・小麦の香り・太さや断面形状など、まずは麺そのものが評価の中心であり、麺こそうどんのアイデンティティです。
極端に言えば、出汁が多少変わっても、と言うか麺だけ口にしても、「このうどんは美味しい」という評価が成立します。これはけっこう重要かつ明快なファクト。
日本には各地にご当地うどんがあり、讃岐うどん、博多うどん、吉田のうどんなど、それこそまったく異なる性質の麺です。
どれもそれぞれの美味しさがあるとともに、その中での優劣も生まれ、それらの微妙な違いはみんな意外としっかり判断できるのではないでしょうか。



一方、フォーの場合、スープの香り・牛骨や鶏の旨味・シナモンや八角などの香辛料バランス・スープの透明感などを、ベトナム人は非常に重視するそう。
実際、ハノイの有名フォー店を語る時も、「麺が素晴らしい店」ではなく、「スープが甘すぎない」「牛骨の味がしっかりしている」「昔ながらの香りがする」といった話になりがち。
では、お肉はどうか。もちろんお肉も重要ですが、主役というよりはスープの引き立て役という位置づけが、ベトナム人の認識だそう。
そもそもハノイの伝統的なフォーでは、牛肉は少量でスープが主役という考え方が根強く、ホーチミンはお肉多めだそうですが、それでもまずはスープありき。
さらに、麺。日本のうどんほど絶対的なものではなく、ベトナム人がフォーを評価する時、「麺のコシが素晴らしい」という話には普通なりません。
せいぜい、「柔らかすぎない・箸で持ち上げても切れない・スープとよくなじむ」程度が求められます。
実際、同じ店でも時間帯によって麺の状態はどんどん変わりますが、スープが良ければ人気店であり続けると言われます。
実はこれ、ベトナム料理全般の特徴でもあり、ベトナム人はしばしば「何を食べるか」より、「どんな出汁・スープか (nước dùng)」を重視。
フォーだけでなく、ブンズィウ、ブンボーフエ、ミエン、バインカインなどの麺料理はどれも、まずスープの出来が問われます。
かと言って、フォー (平麺) をブン (極細麺) に変えてしまったら、それはもはやフォーではありません。麺にもしっかり存在理由があり、熱烈な支持者がいるわけです。
即ち、「フォーであることを決めるのは麺」ですが、「美味しいフォーであることを決めるのはスープ」ということ。フォーのアイデンティティは、やはりスープです。
そしてこれが、外様にとって難しい点。出汁の美味しさというものは、その土地の風土に見合った進化を遂げてきたわけですから、いわば文化です。極論、味というより、考え方。
その文化に馴染みがあれば黙っていても美味しく感じるでしょう。しかしあまりにも異質であると感じれば、強い違和感を持ったりまったく理解できなかったりすることも。
ベトナム人が「このスープが美味しいんだよ」と言うのならば、それはそのように受け止めるべきです。自分の舌に合わない場合、それはもう自分がアジャストするしか。
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ハノイにはフォーの人気店がいくつもありますが、中でもミシュランガイド掲載店の「フォー10リーコックスー」(Phở 10 Lý Quốc Sư: Map) はその最たるものです。
いつ行っても長い行列ができていて、あまりの混雑ぶりに気が削がれ、これまで何度かお店の前まで行きましたが、いずれも入店は断念していました。


ところがこの週末は、観光シーズンの端境期が訪れたのか、初めて行列ゼロに遭遇。店内はほぼ満席でしたが、なんとか待たずにすぐ着席できました (相席)。

こちらがお店のフォーボー (牛肉のフォー)、75,000ドン (450円)。ミシュラン認定店ということで、思い込みもあったかもしれませんが、確かにクリアでキレのあるスープは、殊の外美味しかったです。

麺は何か他店と違うということはなく、いたって普通。牛肉がたっぷり入っていましたが、嫌な臭みがなかったのはさすが。でも、唯一無二というわけでも。言えるのは、全体的に高水準のバランスの良さだったこと。

結論、フォーはどこで食べても美味しいですが、逆に言えばどこで食べてもたいして変わりません。少なくとも現在の自分の、ハノイの出汁文化に対する理解度では。
なので、自分の住処周辺でお気に入り店を見つけられればそれで十分。Pho10のフォーでそう思ったんだから、もうこれ以上は無理そう。
もし自分がベトナム料理ベスト10をつけるなら、フォーは間違いなくランクインします。でもまあ、上位ではないかなあ。。。