A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

ラープを発端にアジアの挽き肉料理について考える

ラオス政府は先ごろ、同国を代表する香辛料の効いた郷土料理「ラープ (Larb)」のユネスコ無形文化遺産への登録を正式に申請しました。2026年後半に審査が予定されています。

ラープは、ラオスだけでなくタイ東北部 (イサーン) でも親しまれる伝統料理です。今回の申請は料理の独占的な所有権を主張するものではないとのこと。

自分もタイにいた頃、イサーン料理店でよくラープを食べていました。そう言えばタイ料理には、ラープ以外にも挽き肉を使ったものがたくさんありました。

ガパオライスやヤムウンセン、各種カレー・炒め物もそうだし、タイラーメンのトッピングにも挽き肉が大活躍。

食事は屋台でという外食文化が強いタイ。短時間で火が通る挽き肉は屋台料理に最適な形態です (強火・短時間調理・回転率)。

また、ハーブを多用するタイ料理ですから、塊肉よりも挽き肉のほうが味と香りが絡みやすく、さらに少量の肉を分ける場合、挽き肉は具合がよろしいわけです。

「東南アジアはどこもだいたいこんなもの (挽き肉料理が多い)」と思いがちですが、実はタイはとくに挽き肉が多用される国なのだそうです。

タイで挽き肉料理が広まった要因は3つ、「肉は貴重・外食/屋台文化・ハーブ料理」という点です。さらに、上座仏教における殺生 (=塊肉) への心理的抵抗感もあったでしょう。

同じ東南アジアと言っても、インドネシアやベトナムとは状況が異なるようです。続いてこの2国について考えてみましょう。

ベトナム
1000年以上に渡って中国王朝の支配を受けてきたベトナムは、中国料理の影響を強く受けています。

その結果、包丁技術が高度化し、肉は薄切り・細切り・角切りなど様々な技法が定着しました。くらべてみれば挽き肉は叩くだけですから、それほど技術はいりません。

実際、麺類のトッピングでも、タイラーメンは挽き肉も多いのに対し、フォーは薄切り肉というイメージがあります。

タイ料理以上に野菜がたくさん使われるベトナム料理では、その核心は「食感の対比」だそう。シャキシャキ野菜と弾力のある麺、そしてしっとりしたお肉のハーモニー。

また、外食文化のタイとは異なり、ベトナムは家庭調理が多いそう。そうなると長時間の煮込み料理もOKだし、凝った包丁作業も。ただし時短のため挽き肉も使われます。

インドネシア
インドネシア料理では熱帯地域らしいスパイスが多用されます。コリアンダー・ナツメグ・クローブ・ターメリック・ココナッツなど。

これらは長時間煮込まれるほど美味しくなりますから、ビーフルンダンなど、塊肉をスパイスで煮込む料理 (カレー) が発達しました。

イスラム社会ではお肉の種類や屠殺方法が重視されます。お肉の素性が重要であり、塊肉は動物種がわかりやすく品質確認もしやすいため重宝される側面も。

また、インドネシアの気候風土は高温多湿であり、表面積の多い挽き肉は腐敗が早まるなど保存性に問題があります。そのため、サテなどの串焼き (小さい塊肉&良く焼き) も定番料理に。

まとめ:上記3国のお肉の理想形
・タイ:挽き肉/農村共同体文化
・ベトナム:薄く切る/農耕文明中国圏
・インドネシア:塊で煮込む/香辛料海洋世界

しかし「中国は包丁技術」と書きながら、一方で中国には多くの挽き肉料理も存在するので、このあたりはどう整理すればいいいのか、なかなか難しいですね。

* * *

中央アジアのウズベキスタンは、タイなど東南アジアとは桁違いの肉食文化です。遊牧社会では羊や馬は生活そのものであり、お肉は貴重品と言うより主食に近い存在。

なので、そもそも挽き肉にしてみんなで少しずつ分けるなどという発想はありません。見た目にもドカンとお肉感マシマシの料理が多かったです。

ウズベキスタンには挽き肉料理もありますが、キーマシャシリク (挽き肉の串焼き) 以外は、どちらかと言えば「中身」として使われることの方が多いと思います。

ウズベキスタンでは客人に対する敬意をお肉の大きさではかったりするところもあるので、やはり気前よくドンとお肉を出すのが良いようです。

中央アジアの伝統的なお肉の保存法としても、乾燥や塩漬けが主流だったので、やはり挽き肉は不向きでした。

* * *

ユーラシアには大きく分けて3つのお肉文化がありそうです。タイなどの挽き肉文化、中国やベトナムの切って整える文化、そして中央アジア草原世界の塊肉を分ける文化。

ウズベキスタン料理にも大きな影響を与えたトルコ料理となると、また少し中央アジアとは状況が異なります。トルコ料理は挽き肉をよく使いますからね。

これはおそらく、トルコが歴史的に遊牧文化がありつつ、イスタンブールなど大都市も発展した地域だからのようです。

挽き肉は何より保存に技術がいりますから、やはり草原社会では難しく、トルコのように一大帝国を築いた国でこそ、それが可能だったというわけです。

これまでに、そんなトルコ料理 (挽き肉料理) をあれこれ食べてきたなと思いつつ、写真がほとんど残っていないので、とりあえずアダナケバブを。

以上です。アジアと言っても東西約9000km、南北約8500kmと広大な地域ですから、食文化もいろいろ違っておもしろいですね。南アジアが抜けているし (キーマカレー、コフタカレー他)、考察としてはまったく物足りませんが。。。

なお、中東のヨルダンには挽き肉団子 (クッベ) を生 (なま) で食べるクッベ・ナイエという料理がありました。ちゃんとしたお店で食べれば、実に美味しい一品です。