中央アジアのウズベキスタンに行ってうれしかったことのひとつが、バラエティーに富んだウズベキスタン料理の数々。
新疆ウイグル由来の中国料理 (ただしイスラム教徒が食べることができるハラールの清真料理) もあれば、トルコ由来の中東っぽい料理も。
さらに近代になるとロシア文化が入ってきましたから、料理は中国・トルコ・ロシア (ヨーロッパ) のいいとこ取りの様相を呈しています。
中でも想像以上に美味しかったのが、ウズベキスタンのトマトうどんとでも言った、スープヌードルの「ラグマン」です。

汁無しの焼きうどん又はナポリタンタイプの「コブルマラグマン」もあり、日本人的にはつい箸がほしくなりますが、普通はフォークとスプーンがついてきました。

コブルマラグマンはイタリアンパスタっぽくもあったので、フォークで食べるのにはさほど違和感はありませんでしたが、これがラグマン (スープラグマン) となると話は別 。
ラグマンは中央アジア全域で食べられている手延べ麺です。名前そのものが拉麺 (Lāmiàn) から来ていると聞いたこともあり、当然ラーメンとして意識してしまいます。
ラグマンが新疆ウイグルから伝わったものと考えれば、なぜ一緒に箸文化も伝わらなかったのでしょう。あれこれ考えてみました。
ラグマンは中国の新疆ウイグル自治区の伝統料理で、シルクロードを通じて中央アジアに伝わったと、一般的には考えられています。
しかし実は、新疆は「中国文化圏」とは言っても、実際にはトルコ系・イスラム文化が強い地域です。
ウイグル人自身も、伝統的に箸よりスプーンや手食、ナイフ文化を持っており、つまり、新疆の段階ですでに「完全な箸文化圏」ではないのだそうです。
中央アジアはもともと「西アジア型食文化圏」で、歴史的にはペルシア文化・テュルク系遊牧文化・イスラム文化の影響が強い地域です。
そのためこの地域では、手食・スプーン・ナイフ、近代以降はフォークが基本でした。中国・朝鮮半島・日本などの「東アジア稲作文化圏」とは異なるわけです。
ラグマンは小麦粉から手延べ麺を作る技法およびそこに具材を混ぜるスタイルの料理技術としては伝わりましたが、箸で食べる作法までは伝わり (根付き) ませんでした。
20世紀に中央アジアはソ連圏に入り、その結果、食器はヨーロッパ式に統一、フォークとスプーンが標準となり、箸は「中国的なもの」として一般化しませんでした。
さらに、遊牧文化との相性もあります。箸は、木工技術・細い器・共有しない個人食に向いています。
一方、中央アジアは伝統的に、大皿料理・肉中心・パン (ノン) 文化でした。やはり箸よりもナイフや手食が合理的だったんですね。
ということで、東アジアの箸文化圏の西端は新疆ウイグル、その西側の中央アジアはスプーン・手食文化圏という境界線があるようです。
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ラグマンをフォークで食べることには何の問題もありませんが、ただし箸で食べるよりはスープが跳ねる・飛び散るような気がします。白シャツの時は本当に要注意。


そのお店に何度か通うようになると、こいつは東アジア人 (たぶん中国人) だなと思うのか、気を利かせて箸を出してくれるようになったりもしました。ありがたや。


もっとも、箸で食べたからといって、汁の飛び跳ねが劇的に減ったかといったら、まあそんなこともあまりなかったんですけどね。。