世界各地の創世神話には近親婚 (神どうしの兄妹・親子関係など) がよく出てきますが、それにはいくつか共通した理由があります。
①登場人物が「最初の存在」しかいないから
創世神話は「世界の始まり」を描きます。最初は神が1柱だけ、あるいは兄妹の神だけという状態が多いです。まだ人間も他の神もいないため、世界を増やすには身内同士で結びつくしかないという設定。これは倫理的な肯定というより、物語上の必然です。
②王権や神聖性を説明する象徴
古代社会では、王家が血統の純粋さを重視する例がありました。そのため神話の中でも、神の血は特別で混ざらない、神聖な力は家族の中で循環する、というイメージが使われます。
③「世界はひとつから分かれた」という思想
多くの神話では、男性と女性、天と地、光と闇などが、もともと一体だった存在から分裂して生まれると考えられています。そのため、兄妹神や親子神の結びつきは宇宙の統一性を表す象徴として描かれることがあります。
これは生物学的な意味より、哲学的・宇宙論的な表現です。
④神話は人間社会のルールとは別の世界
大事な点は、神話の中で起きることは必ずしも人間社会の規範を示していないということです。多くの文化では、神の世界では許される、しかし人間の世界では禁忌、という対比がはっきりしています。神話は「世界がどう始まったか」を語る物語であって、日常生活のモデルとは限らないわけです。
では、創世神話の中でも近親関係 (兄妹・親子など) が多い文化圏と、比較的少ない文化圏を分けて見てみます。同じ「世界の始まり」でも、宇宙観や社会構造の違いがかなり表れます。
近親関係が多く登場する神話
■古代エジプト神話
兄妹神・夫婦神が非常に多く、兄妹神同士が結びつき次の世代を生む系譜がよく見られます。王族でも血統維持が重視された社会、神の力=血統という思想、神々が「家族王朝」のように構成される背景がありました。
■ギリシャ神話
神々の家系が複雑で、親子・兄妹関係が頻繁に出てきます。神々が人間的な性格を持つこと、神の世代交代 (原初神→ティタン→オリュンポス神) が重要テーマ、血縁関係がドラマを作る装置であることなど。またギリシャ神話では、人間側では近親関係が悲劇として描かれることも多いのが特徴です。
■ポリネシア神話 (ハワイ・マオリなど)
天空神と大地母神が兄妹だったり夫婦だったりします。宇宙を巨大な家族として理解する世界観、王族の神聖性を強調する文化など。神々の近親関係は「宇宙が一体だった名残」という意味合いが強いです。
近親関係が比較的少ない神話
■北欧神話
始まりは混沌や巨人で、家族関係はあるが近親関係は中心テーマではありません。世界は対立 (火と氷など) から生まれるという思想。神族と巨人族の境界が重要です。血統より「闘争・運命」が物語の軸。
■日本神話 (記紀神話)
最初期に男女神の結びつきはあるが、近親関係そのものが強調されるわけではありません。国土生成 (島々が生まれること) が主題で、神々が自然現象と結びついています。家族ドラマより「土地の誕生」が中心。
■アブラハム系宗教の創世観
唯一神による創造が中心で、神同士の婚姻関係がほぼありません。一神教では神の血統という概念が弱く、神は超越的存在であり家族構造を持ちません。そのため神話に近親関係が入りにくい構造です。
文化差のまとめ
■近親関係が多い神話
・神々が「家族王朝」のように描かれる
・多神教・王権神授思想が強い
・宇宙=巨大な家族という発想
■近親関係が少ない神話
・神が単独または少数
・宇宙が対立や秩序から生まれる
・神を人間的な家族として描かない
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とまあ、突然こんなことに思いを巡らせたのは、2月5日は「双子 (ふたご) の日」ということで、そう言えばトンガの創世神話は双子から始まっていたなと、思い出したからです。トンガの神話はポリネシアの特徴が現れています。
トンガ創世神話
はじめに、海とプロトゥ (霊が住む世界) があった。
ふたつの境界にはトウイアオ・フトゥナという岩があった。
岩の上にはビキと双子の妹ケレ、アトゥンガキと双子の妹マイモアオ・ロンゴナ、フォヌアウタと双子の妹フォヌアバイ、ヘモアナと双子の妹ルペが住んでいた。
ビキはケレと交わり、息子タウフリフォヌアと娘ハベア・ロロフォヌアが生まれた。
アトゥンガキはマイモアオ・ロンゴナと交わり、娘ベレラヒが生まれた。
フォヌアウタはフォヌアバイと交わり、娘ベレスィイが生まれた。
成長したタウフリフォヌアはハベア・ロロフォヌアと交わり、3人の息子、ヒクレオ、タンガロア、マウイが生まれた。
3人は世界を分けあい、ヒクレオはプロトゥ、タンガロアは空、マウイは地下世界をとった。
海ヘビの姿をしたヘモアナと、鳩の姿をしたルペは、残りの世界を分けあった。ヘモアナは海を、ルペは陸地をとった。
タンガロアは空にあって、タンガロア・タマポウリ・アラマフォア、タンガロア・エイトゥマトゥプア、タンガロア・アトゥロンゴロンゴ、タンガロア・トゥフンガらの子をもうけた。
眼下に広がる海原を見飽きた老タンガロアは、陸地をさがすためチドリの姿をしたタンガロア・アトゥロンゴロンゴを下界に遣わした。
タンガロア・アトゥロンゴロンゴが見つけられたものは、水面下の岩礁 (後のアタ島) だけだった。
老タンガロアはタンガロア・トゥフンガに、彼が作っていた木彫りの切りくずを海に投げるよう言った。
タンガロア・トゥフンガは長くこの作業を続けたが、チドリの姿で下界に降りたタンガロア・アトゥロンゴロンゴは、二度に渡って陸地を見つけることはできなかった。
三度目に、タンガロア・アトゥロンゴロンゴは切りくずが島になっているのを見つけた。これがエウア島である。
この後、タンガロア・トゥフンガがさらに切りくずを海に投げ入れると、カオ島とトフア島ができた。
トンガタプ島と他の多くの島は、マウイの仕事である。ある日、マウイはマヌカを訪れると、トンガ・フシフォヌアという老人から釣り針をもらった。
マウイは海に釣り針を投げ入れ、糸を引き上げようとすると、大きな獲物がかかっていた。
必死の力でマウイが引き上げると、海の底からトンガタプ島が持ち上がった。
マウイは釣りを続け、次々に多くの島を海底から引き上げた。フィジーとサモアのいくつかの島も、マウイが引き上げたものである。
海中にあったアタも、やがて水面からその姿を現した。
タンガロア・アトゥロンゴロンゴはチドリの姿でアタ島を訪れると、一粒の種を島に落とした。
タンガロア・アトゥロンゴロンゴが次にアタ島を訪れると、芽吹いた植物で島は覆われていた。
チドリの姿をしたタンガロア・アトゥロンゴロンゴがくちばしで植物の根をつつくと、ふたつに分かれた。そして彼は空にもどった。
数日後、タンガロア・アトゥロンゴロンゴが島に降りると、腐った根の中にイモ虫が丸まっていた。
彼がイモ虫をつつくと、ふたつにちぎれた。それぞれの身は、人であるコハイとコアウになった。
タンガロア・アトゥロンゴロンゴのくちばしの中にはまだイモ虫の身が残っており、それは人であるモモになった。
コハイ、コアウ、モモは、最初のトンガ人となった。
マウイは3人のためにプロトゥから妻を連れてきた。彼らはトンガ人の祖先となった。

まあでもよく考えたら、双子が4組いるんだったら、他にももっと組合せがあっただろうなんて、無粋なことを思ったり思わなかったり。だからこそ神話なんでしょうけれど。

