11月23日は日本の国民の祝日のひとつである「勤労感謝の日」です。国民の祝日に関する法律 (祝日法、昭和23年法律第178号) 第2条によれば、「勤労をたっとび、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう」ことを趣旨として、同法により制定されました。
日本では古くから、天皇が新穀などの収穫物を神々に供えて感謝し、自らも食する「新嘗祭」という祭事が行われています。もともと、年中祭日祝日ノ休暇日ヲ定ム (明治6年太政官第344号布告) によって、11月23日は祭祀と同名の休暇日となっていました。
第二次世界大戦後、GHQ指導のもとで新たに日本国憲法が制定され、祝祭日からは国家神道の色彩を払拭するという方針で、新たに祝祭日を選定し直すことになりましたが、新嘗祭は勤労感謝の日という名称に改められました。
もともとが新嘗祭であり、つまりは農業生産・農業労働に感謝する日なわけです。そう考えると、日本人にとっての労働とはほとんど肉体労働と同義語であり、求めるところは生産です。何にしても、手足を動かし額に汗して働き、収穫を得るというのが基本。
さて、そんな勤労感謝の日に、サウジアラビアでのある出来事を思い出しました。過去記事「イスラム金融」にも少し書きましたが、本来、宗教的には勤勉でなければならないサウジ人は、日本人の尺度では明らかに働かない (体を動かさない) 人々に見えます。
サウジ人の精神風土を遊牧民 (ベドウィン) とするならば、日本人は大きく言えば農民 (農業民族) です。農民の仕事が農作業 (肉体労働) であるならば、遊牧民の仕事は放牧したラクダやヒツジの管理です。牧草を生やすのは天の仕事、遊牧民はそれを持続的に利用するだけです。当然それは頭脳労働の範疇。
また、砂漠気候で耕作に向かないアラビア半島では長らく、都市間を結ぶ交易事業が、地域社会の経済発展の基礎となりました。預言者ムハンマドも、ラクダを駆り交易に従事していたそうです。
中世、シルクロードを通じて東西世界の物流を担ったアラブ商人としての誇りは、脈々と現代にも受け継がれているように見えます。「安く買い叩いて、他所で高く売る」などと言うとイメージが悪いですが、彼らにとって流通業は、歴史ある尊敬すべき職種です。

日本では江戸時代に「士農工商」と呼ばれた歴史があります。侍は別にして、農民と技術者 (工) は生産者であり、商人よりも格上とみなされました。一方のアラビア半島では、商人などの「頭で儲ける」ことが最善であると信じられてきました。
こういった背景がある中で、自分が体験したことが、次の一件。
■ファッラーフ (農民)
ある日サウジアラビアにて、職場に水 (1.5L✕6本) を2箱買って持っていきました。車を玄関に横付けし水の箱をトランクから出していると、受付のサウジ人スタッフが「バングラデシュ人 (職場の労働者) を呼んできてあげる」と声をかけてくれました。
車を駐車場に止め直し玄関に戻ってくると、まだ誰も来ていません。2階の自分のオフィスに運ぶだけですから、わざわざ人を呼ぶほどのことではありませんし、何よりいつ来るかわからないバングラ人を待ち続けるよりは、自分で運べばすぐに終わることだと思い、おもむろに水の箱を抱え上げ運びはじめました。
階段を上っている途中、受付で声をかけてくれた人が戻ってきましたが、結局誰も連れていませんでした。「自分で運ぶからもういいよ」とひと声かけると、彼がこちらをじっと見て小さな声で「ファッラーフ (農民)」とつぶやくのが聞こえました。
農民とはすなわち、頭を使わずに体を使って働く人々のことです (そもそも誤解がありますが・・・)。サウジアラビアにおいては「力自慢の能なし野郎」といったところでしょうか。
受付の彼に言わせれば、「なぜバングラ人ワーカーを使わないのか (彼らには給料も払っているのに)」ということです。そんなに急がなくても待っていればそのうち誰か来るわけですし。
「自ら体を動かさずに国を発展させることができるのか」というテーマは時々サウジ人スタッフと議論しましたが、実際問題、サウジアラビアなど湾岸産油国はオイルマネーを活用し、外国人ワーカーをうまく使って国を発展させてきたわけですから、正直こちらはぐうの音も出ませんでした。
「石油はいつかなくなる」というのがこちらの精一杯の反論でしたが、これも現地の新聞で「石油埋蔵量はあと160年分」という記事を見つけ愕然としました。さらに、実はサウジアラビアには他にも金を含めて天然資源の鉱脈が無数にあるそうです。。。
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ということで、頭脳労働と肉体労働のどちらにより高い価値があるかという問題ではないと思うのですが、国によっては根強い偏見があったりするというお話でした。
ちなみに、バングラ人ワーカーにしてみても、この時は「自分の仕事を奪わないでくれ」と思ったみたいです。難しいなあ。。。
別にワーカーを使うことには何の問題もないんですけどね。逆に自分はそんなサウジ人の価値観に対して非効率的とか「ずるい」みたいな偏見を持っていたのかも。
昨今、スポーツ観戦後に競技場のゴミ拾いをする日本人客が世界から注目されがちですが、世界的に見たらこの行動はやはり異常なのかもしれません。
そういう考え方を知ってはいても、だからといって平気でゴミのポイ捨てができる日本人なんて、もうだいぶ少数派だと思いますけどね。
なお、サウジ人は普段着としていつも「トーブ (Thaub)」を着ていますが、開脚もし辛いしどう見ても力仕事や農作業には不向きな服装だと思います。
裾をたくし上げれば作業も容易ですが、職場でそんな格好をしているサウジ人は見たことがなかったなあ。
学校では先生も生徒もトーブですからね、子供の頃から徹底しています。「自らは動かず他者 (外国人ワーカー) をうまく使え」とでも教えられているのかな。


ちなみに、リヤド北部のラクダ市場で出会った写真の人は、エチオピアからの出稼ぎ労働者でした。もう自分で世話なんてサウジ人はしないんだろうなあ。

