タイ映画「サッパルー!(สัปเหร่อ/葬儀屋/The Undertaker)」は、本国タイでは2023年に公開され、小規模上映から全国へ拡大し、その年の興行収入1位 (日本円で約30億円) となる大ヒットを記録したホラーコメディ映画です。
タイでもっとも権威ある映画賞「スパンナホン賞 (第32回/2024年度)」で最優秀作品賞を受賞した本作は、タイ東北部 (イサーン地方) を舞台にした一連の「タイバーン・ザ・シリーズ」のスピンオフ作品です。ようやく静岡でも一般公開されたので観てきました。

■あらすじ
タイ東北部 (イサーン地方)、シーサケート県ノンクン村。霊の存在が広く信じられるこの土地で、自ら命を絶った妊婦バイカーオの亡霊を目撃する住人が多数あらわれる。しかし、同じ街に住む元カレのシアンのもとには一向に姿を現さない。
どうしてもバイカーオに会って話がしたいシアンは、街でただ一人の葬儀屋 (サッパルー) のもとを訪れ、幽体離脱の術を伝授してくれと頼み込む。霊体になってバイカーオのいる死者の世界へ向かおうというのだ。
老い先の短さを自覚している葬儀屋は、弁護士を目指している息子と共に、シアンにこの街の葬儀屋を継ぐことを条件に指南を開始するのだが・・・。街を騒がす元カノの本当の目的とは一体⁉ (⇒日本語公式HP)

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とても面白かったです。これまでタイバーン・ザ・シリーズを観てきたので、スクリーンに登場するおなじみの面々に再び会えただけでも、大いに観る価値がありました。
今作はあくまでスピンオフ。そのためシリーズ本編でメインをはっているロートの登場は少なめ (ストーリーにも大きくは関わりません)。
ロートを取り巻くケーオとワーンがワンシーンだけでも登場したのは、シリーズのファンに向けてのサービスでしょう。さすがです。自分は心のなかで拍手喝采でした。
シリーズの解説はコチラに書きましたが、やはり今作が初見の人には、分かりづらいあるいは理解しがたい部分があったかもしれません。
とくに、元カノに執着する理由。実はこの未練タラタラでウダウダやっているのが、ある意味シリーズの醍醐味。今カノと同棲しているにもかかわらずです。
主役のシアンがあまりにいい加減で優柔不断なため感情移入できない人もいそうですが、これはシリーズ初期からの設定なので、この世界観はもう受け入れるしかありません。シアンも根っこの部分ではいいヤツですしね。
その上で、イサーンの文化や生活風景などを楽しめたら、もうこのシリーズの虜になること間違いなしです。
祖父・祖母と暮らす孫という設定が多いのも、親世代がバンコクに出稼ぎに出ることが多いこの地方では当たり前のことです。
セリフはすべてイサーン語ですし、葬儀や信仰・死生観など、バンコクや他の地域のタイ人には、いろいろ新鮮に映ることが多いのでしょう。
気落ちしてふさぎ込むシアンに対し、祖母が「ご飯 (カオジー) を食べな!元気が出るよ」と言ったシーンは、自分にもけっこう刺さりました。
今作のもっともモヤモヤする部分は、結局バイカーオが街に現れた理由はなんだったのかということでしょう。公式HPでも詳細な解説はありません。
この部分はあえて観客の想像に任せているようです。ただ、シアンとバイカーオの関係だけにおいて語られているものではないのかなと、そう思いました。
おそらく、シアンを含め街の人々に、もっと言うなら観客たちにも、亡くなった人たちとしっかり向き合ってほしいという、制作陣のメッセージだと受け取りました。
この点は、イサーンに生まれ幽霊は身近な存在と考える (と言うか "見える") ティティ・シーヌアン監督 (ロート役で出演) の思いが色濃く反映されているのでしょう。
今作のストーリーはシアンとバイカーオの関係に加え、葬儀屋の親子関係と葬儀の執り行い方も見どころでした。
そのため今作は、ホラーコメディ、SF (異世界)、ラブストーリー、家族ドラマ、社会ドラマといろいろな要素を詰め込んだ、実に奥深いエンタメ作品だったと感じました。
続編も予定されていて、次は死後の世界を舞台に「死んだ人たちはどこに行くのか?」が描かれるそう。「タイバーン・ユニバース」の今後の展開が楽しみです。
(↑タイバーン・ザ・シリーズの系譜)