インドネシアは1万7000以上の島々で構成される世界最大の群島国家です。国土面積は約190万km²で、日本の約5倍の広さがあります。
東西5110km、南北1888kmに渡る広大な領海に島々が点在し、主要な島はスマトラ島、ジャワ島、カリマンタン島 (ボルネオ島)、スラウェシ島、ニューギニア島西部など。
島ごとに風土が異なるため、それぞれ特徴的な伝統文化があります。自身、2年ちょっとの滞在で見ることができたのは、インドネシアのほんの一部の側面だけ。
なので伝統家屋と言っても自分が見たものはふたつくらいでサンプルが少なすぎるのですが、それでもそこを訪れた時は静かな感動をおぼえました。
ニアス島
ヤホウ!(Ya'ahowu) はニアス語でこんにちはの意味。今はメダンから飛行機が飛んでいるのでアクセスは簡単になりましたが、ひと昔前は船しかなかったそう。この時は津波の遺構などいろいろなものを見てきました。(写真はニアス文化博物館のゲストハウス)

■バヲマタルオ
南ニアス県のバヲマタルオ (Bawomataluo) は、小高い丘の上を平面に切り開き、伝統的な様式に則って造られた村です。

首長の家 (オモ・セブア Omo Sebua) の左右と正面に広い歩道があって、道の両側には村人の家 (オモ・ハダ Omo Hada) がずらりと軒を連ねています。首長の家がまたすごい。

なんといってもその特徴は高床式の部分。釘を使わない木組みの構造で、何十本とある束柱は地面に置かれているだけで、固定されていません。実はこの構造が、地震の時に免震ダンパーの動きをするのだそうです。地震が多いこの地域ならではの技術ですね。

オモ・セブアの内部は光と影が交錯し、エキゾチックな木彫の装飾と壁に掛けられた無数の骨 (村人にふるまった牛?) が不思議な空間を生み出していました。ふと100年も前にタイムスリップしたような感覚に。

これがホテルだったらぜひ泊まってみたいですが、一生住むとなると、屋根の葺き替えや柱の定期メンテナンス、またトイレや台所、洗濯も不便でしょうから、正直かなり躊躇してしまいます。

実際、2年に1回交換が必要なヤシの葉の屋根はほとんどの家で近代的な人口素材に取り替えられていました。ただ、屋根をカッチリしたものにしてしまうと、湿気がこもってますます家のメンテが大変なのだとか。建築費用も高いし柱材の調達も大変だし、伝統を守るのも大変ですね。

バヲマタルオには成人の証として石を飛び越えるニアス島の通過儀礼「ファホンボ」の石台があります。その様子は1000ルピア札にも描かれています。


バドゥイ
ジャカルタから車で南西に約4時間、バンテン州の山間部に、秘境と呼ばれるバドゥイの村があります。彼らは伝統的な慣習に従って昔ながらの生活を続けており、いまだに電気や車など文明の利器を拒絶しています。


この時入ったのは外バドゥイまで。内バドゥイに観光客が入ることは許されません。村にはいくつも祭事があるそうですが、その時は外部の人間を締め出して行うため、それらの多くがベールに包まれたままです。


バドゥイには多くの慣習があり、学校に行かないこともそのひとつだそうです。村にはテレビもラジオもありませんが、このご時世なので携帯電話 (スマホ) は持っている人が多いようです。婚姻は親が決めるもの、そして外からの嫁入りはないとのこと。


女の子は小さい時から機織りをします。村を歩いていると常にトントン、トントンと機織りの音が聞こえていました。


村見学のツアーも盛んで、ガイド (村人) はサンダルも履かず、片道小1時間の山道を、お客の荷物をかついで軽々と歩いてゆきます。

家の建材は竹。壁も床も天井も竹でした。橋まで竹でできていて、渡る時けっこう揺れるのでちょっと怖かったです。

米倉は1世帯1つ。田んぼを作る土地がないので、山肌に陸稲を植えています。植えるのも収穫も大変そう。お米は外部に売ってはいけないそうで、すべて自家消費。とにかく掟がたくさん。

訪問した日は生憎の天気でしたが、山の岩肌を流れる水の音も清々しく、蒸し暑かったぶん、心もお肌も潤いました。お土産に、内バドゥイの村人が1ヶ月かけて織った藍染の布を買いました。あとハチミツも。

なお、彼らをバドゥイと呼んだのはオランダ人だそうで、アラビア語のベドウィンに因んで都市定住者の反対語といった意味でつけたようです。彼ら自身はカネケス (Kanekes) と称しています。

バドゥイの村に到着すると、ガイドの家に招待されてまずは甘いものをいただきました。バナナを蒸し焼きにしたものは、甘味に酸味が加わって、疲れた身体にスーッと染み込んでいきます。

茶色いお菓子はクエ・チンチン (指輪のお菓子)、素朴で優しい甘さ。ヤカンとコップを出してきてくれたので、きっとお茶かと思ったら、なんと山の清水でした。たぶん美味しいんだろうけれど、生水なのでさすがに飲むのは遠慮しました。

お昼ご飯はお米とイカン・アシン (魚の塩漬け)、バナナ (の中心部) の煮物、煮豆、そしてインドミー。家の中のかまどで調理してくれたものです。


バドゥイには多くの慣習 (アダット) があります。主なものは次のとおり。
・殺してはいけない (鶏も村の外でしめてくるそう)
・盗んではいけない
・不義をしてはならない
・酒に酔ってはいけない
・夜間食べてはいけない
・乗り物に乗ってはいけない
・花や香水をつけてはいけない
・金や銀を受け取ってはならない
・お金に触ってはいけない
・髪を切ってはいけない (外部の人に切らせるということ?)
・水稲を育ててはならない (なので陸稲のみ:写真)
・肥料を使ってはならない
・農作物を売ってはいけない (農作物はすべて自家消費)
・近代農耕器具や家畜を使ってはいけない
・学校で学んではいけない (彼らの多くが文盲)
・水の流れを変えてはいけない (養殖池などはダメ)
・土地の形を変えてはいけない (井戸掘りもダメ)
・木を切るため森に入ってはならない
・四足の動物を飼ってはいけない (山羊や水牛など)
・必要以上に田畑を広げてはいけない
・だらしない服装は禁止

この村がいつまでも同じ姿のまま続いてほしいと思う一方、次世代の子供たちには、自分はどうしたいのか選択肢は与えてあげてほしいなと、ついそんなことを考えてしまいました。
