A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

英語もいろいろ(発音なんて気にしない)

これまで長く海外で働いてきました。仕事で使う言葉は基本、英語。とは言っても、英語が母国語の国はひとつもありません。

こちらも仕事相手も、第一外国語である英語を共通言語として使っていました (ウズベキスタンだけは第一外国語がロシア語で、英語は彼らにとって第二外国語でした)。

その国の母国語のアルファベットや文法体系によって、彼らの使う英語にも特徴が出てきます。日本人もカタカナ発音ですが、日本語には母音しかないのだから仕方ない。

英語 (のとくに発音) もいろいろだなあと、事あるごとに実感してきたので、そんな体験をいくつか、まとめて。

英語もいろいろ (1) 中東の場合

初めて海外赴任したのは、カタールというペルシャ湾の豊かな小国でした。労働力の90%は外国人 (出稼ぎ労働者) と言われていたように、町にはインド人やフィリピン人があふれていました。

買い物ではアラビア語よりむしろみんなの共通語である英語の方が良く通じたし、多くのカタール人家庭がフィリピン人のメイドに子育てを任せていたので、子供がアラビア語よりも先にタガログ語を覚えてしまうという笑えない話もありました。

さて、インド人の英語というとご存じの方も多いでしょうが、まず「R」はものすごく巻き舌です。例えば水は「ウォータル」、空港は「アイルポルト」。

また「Th」は舌をかむ「サ」ではなく「タ (タハ)」と発音します。「タンキュー (Thank you)」とか「アイ・ティンク (I think)」などは頻繁に聞くのですぐに慣れましたが、発音に加えインド英語独特の抑揚と、かなりの早口には最初はかなり手こずりました。

特にきちんと英語を勉強した人ほど「インド英語はわからない」と言います。自分は幸か不幸か (たぶん不幸・・・) 本格的に英語とつきあい始めたのがカタールだったので、インド英語にはすっかり耳が慣れ、逆にいつまでたってもイギリス英語にはなじめないまま。

サウジアラビアでの出来事ですが、知人 (日本人) の家にいた時、電話がかかってきました。知人は電話口で「え?なに?」を連発しています。間違い電話ではなさそうだけど全然わからないので代わってくれ、と言われ電話に出ると、相手は「アイム・ドリベル、カル・プロブレム」と言っていました。

「I'm driver, car problem」と言っているのだとすぐにわかったので、話を聞き知人に要旨を伝え、電話を返しました。話が終わって受話器を置いた後、知人は「あの英語が良くわかったね」と感心していました。感心されるとちょっと悲しい・・・。

* * *

アラブ人の英語も、ある意味全然別物です。アラビア語には母音が「ア・イ・ウ」の3音しかなく、またP音、V音、普通のG音などがありません。

もっときつい音のG (ガイン) はありますが、発音が難しく、方言として地域によってQ音 (カーフ) やJ音 (ジーム) がG (ガーフ/ギーム) になりました。

ラ行としてL音 (ラーム) とR音 (ラー) があり、Rは巻き舌で発音することなどから、アラブ人の話す英語は、初めて聞く人にはかなり聞きづらいものになります。

「ブリーズ・ブッシュ」と言われたら「押してください (Please push)」ということだし、「バンダ・スーバルマルケット」は「Panda Supermarket」のことです。

「イ・エ」「ウ・オ」の発音上の区別はあいまいで、「ヨウコ」と「ユウコ」は同じように聞こえるようです。

Yoko/Yukoはアラビア語表記も同じになってしまいますし、きちんと区別して聞いていても、実際の発音はうまくできない人が多かったと思います。

またアラビア語では、文法的に受動態を表現することはできますが、普通はあまり使いません。「私は彼に招待された」とは言わず、「彼は私を招待した」と言うのが一般的です。

あくまで動作の主体の人を主語にもってくるのがアラビア語の流儀で、そういう思考回路を持っているためか、アラブ人が話す英語の会話でも、あまり受動態は使っていなかったように思います。

逆にエチオピア人の英語は、かなり受動態を多用していた印象があります。アムハラ語ではそういう文法構造が一般的なのかもしれません。

英語もいろいろ (2) イギリス人でも・・・

サウジアラビア滞在の後半に住んでいたコンパウンド (外国人専用集合住宅) は、100戸余りのうちほとんどがイギリス人でした。

そのうち知り合いもできましたが、イギリス英語の壁は思いの外厚く、「なんでこんなにわからないの?」と落ち込むくらい、イギリス人の話していることがわかりませんでした。

イギリス人 (の男性) が集まると、話題がいつも株とか投資の話になっていたことも、ますます頭を混乱させる一因だったと思います。

1対1で話せば、気を利かしてゆっくりわかりやすく話してくれる人も少なくありませんでしたが、ほとんどは遠慮なしに普通に話しかけてくるので、イギリス人と会う時はいつも気が重くなったものです。

ある時、コンパウンドのプールサイドパーティーで、1人のイギリス人が話しかけてきました。しかし、彼の英語は珍しくゆっくり・丁寧・簡潔で、とてもよく理解できました。

一通り会話を楽しんだ後、「わかりやすく話してくれてありがとう」とお礼を言うと、彼は頭をかきながら、「実は私はスコットランド出身で、英語は今習っているところなんだよ」と恥ずかしそうに言っていました。それでわかりやすかったのか・・・。

* * *

イギリスは「United Kingdom (連合王国)」と称するように、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドから構成されています。

言葉はスコティッシュもあればウェルシュもあって、英語はもちろん全国で良く通じるものの、基本的にはあくまでイングランドの母国語、という意識があるようです。

サウジアラビアからイギリスに旅行した際、バスツアーでウェールズにも行きましたが、ローマ字表記なのに何と読むかわからない地名の看板も多く、「イギリス=英語」という固定観念が崩されました。

イギリス人らしき人に「あなたはイギリス人ですか」とたずねる時、「English」と言うとイングランド以外の人は不快に感じることもあるそうです。

なので無難に「British」あるいは「UK」と言う方が良いとのこと。イングランドの人に聞いたら、けっこう気を使う問題だと言っていました。

ファッカミーとパックユー

リヤドにて、ある日の職場での出来事。大柄なスタッフがドアから顔をのぞかせ、中にいたサウジアラビア人スタッフを見つめながら、ボソッと「ファッカ・ミー」と言いました。

微妙に物騒な物言いに、名作映画「エクソシスト」のセリフを思い出し、横で聞いていた自分はドキリとして、この2人の間に何があったのかと心配になりましたが、大柄なスタッフはもう一度、今度は「ミーア・ファッカ」と言いました。

なぁんだ、そういうことか。ホッと胸をなで下ろしました。つまり、彼はミーア (100リヤル札) がファッカ (小銭) にならないか、問いかけていたのでした。まったく人騒がせな。ちなみに、ファッカはお釣りの意味もあります。

* * *

以前、リヤドの空港で出国待ちをしていた時のことです。空港の売店はごった返しており、客も店員もみんながイライラしていました。

レジ係はフィリピン人。1人のサウジ人が前の客を押しのけ支払いをさせろと迫ると、カッとなったレジ係はとっさに「パック・ユー!」と声を荒げました。

"Fxxk you"のことだとは思いましたが、残念ながらお国の訛りでF音がP音になってしまいました。

これじゃあ「包んでまうどコラッ!」ってことだな、などと考えるとおかしくて、笑ってしまいそうになりました。現場は一瞬緊張しかけたんですけどね。

フランス訛りの英語

エチオピアでフランス人技師と話した時のことです。彼は掘削機を扱うメーカーのエンジニアで、アフリカ地区の営業と顧客の実地訓練を担当している方でした。

自己紹介のとき「イン・シャグジ・オブ・ドギリング・ギグ・トゲーニング」と言っていて、「ああ、やっぱりR音はG音なんだ」と妙に感動してしました。

これ、「in charge of drilling rig training」(掘削機の訓練の担当) ということ。あ、G音といっても喉の奥から出るかすれた破裂音で、痰を吐くようなちょっと汚めのG音。

英語の発音に関しては他人のことはとやかく言えませんが、少なくとも彼は自分の肩書きを言うのがえらく大変そうでした。

もっと普通に英語っぽくしゃべれるんじゃないかなとは思うんですけどね。フランス人はそういう部分は曲げない人達なのかなと思ったりしました。

* * *

映画「ピンクパンサー」で、パリ警察のクルーゾー警部がアメリカのホテルにチェックインする際、「ドゥー・ユー・アバ・グーム? (Do you have a room?」と言いました。

それを受けて、ホテルスタッフが「ドゥー・ユー・アバ・ギザグバスィヨーン? (Do you have a reservation?)」と返答していたのは、まあ笑いどころだったんですよね。