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~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

おばあちゃんと僕の約束(タイ映画/日本公開)

「おばあちゃんと僕の約束」は2024年公開のタイのドラマ映画です。タイの首都バンコクの古くも美しい下町の風景の中で織りなされる、祖母と孫の心温まる交流を皮肉とユーモアを交えながら描き、本国タイのほかアジア各地で若者を中心に支持を集めたヒューマンドラマ。

大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エムは、従妹ムイが祖父から豪邸を相続したことを知り、自分も楽をして暮らしたいと考えるように。そんな中、お粥を売って生計を立てているひとり暮らしの祖母メンジュが、ステージ4のガンに侵されていることが判明。遺産の相続を目的にメンジュに接近したエムは、祖母から信頼を得ようと交流するなかで、その慎ましく生きる姿や考えに触れていく。(⇒映画公式HP)

いま日本で絶賛公開中のため、あまりネタバレになりそうなことは書けませんが、多くの観客と同様、自分も中盤から涙がじわりと湧いてきて、最後はもう滂沱の涙、けれどもラストシーンはなんとも気分晴れやかな、つい空を見上げてしまうような、しみじみ良い物語だったなと感じたのでした。

エムの心情の変化はもちろん、おばあちゃんと娘 (エムの母) の関係性も、胸に迫るものがありました。親が子のため身を粉にして働くことは、親にとっては当然のこと、しかし子供にとってはいささか重いと感じることもあります。

エムの母親はそのため学校を中退して働き始めたのですが、結局いまは自分が子 (エム) のためしゃかりきになって働いています。ずっと働き通しなのも、夫を先に亡くしたのも、親から遺産をもらえなかったのもおばあちゃんと同じ運命。

似た者同士 (あるいは遺伝) とも言えるし、このあたりは女性の地位に関するタイの社会問題を絡めているのかもしれません。エムの母親とおばあちゃんが最後まで微妙に折り合いが悪い、けれども言いたいことを言い合えるのは親子の絆だと感じるのも、優れた脚本と俳優陣の演技の賜物ですね。

エムの従姉妹のムイは、看護していた祖父が食事を喉につまらせた時、対処方法はわかっていたけれど何もしなかった (そのため祖父は亡くなった) とエムに告白しました。ここで自分、「え?ムイって悪いやつ?!」と思ったのもつかの間、実はそれは祖父との約束だったのです。自然に逆らってまで生きたくないという祖父の願いでした。

「おじいちゃんは夢に出てくるの?」エムにそう聞かれたムイは、少し天を仰ぎながら「おじいちゃんは天国に行ったから」とさみしそうにつぶやくのでした。うっすら涙を浮かべるその表情は、「天国が楽しいから自分の夢には出てきてくれない、嬉しいけれど少しさみしい」とつい妄想のセリフが浮かんでしまうような、心に刺さるシーンでした。

主人公エムを演じた人気俳優・ミュージシャンのビルキンことプッティポン・アッサラッタナクンも良いし、78歳にして俳優デビューとなった祖母メンジュ役のウサー・セームカムも抜群に良い。息子・娘役の俳優陣も達者な人たちばかりでしたが、ムイを演じたトンタワン・タンティウェーチャクン (愛称トゥ) に、出演シーンは短めながら目が釘付けでした。ああ良い映画を観た。満足、満足。

映画でもうひとつ嬉しかったのは、バンコクの下町の雰囲気がとても良く描写されていたことです。タラートプルー駅の線路沿いは何度か散歩したことがあって、懐かしく思い出しました。(⇒タイ政府観光庁HP:映画ロケ地紹介)

参考過去記事
ウォーキングバンコク実践編 (15) タラートプルー