中東ヨルダンのペトラ遺跡で洪水が発生し、観光客約1800人が避難したというニュースがありました。
ペトラと言えば映画「インディ・ジョーンズ」第3作の舞台にもなった、世界中の観光客に人気のスポットです。
洪水の原因は大雨。短時間に降った雨が岩肌を伝って集まり早瀬となって、やがて人が立っていられなくなるほどの急流となるわけです。
昔、サウジアラビアの首都リヤド近郊で、これと近い体験をしました。以下、過去記事からピックアップ。
砂漠で洪水
リヤドに赴任してすぐの12月半ば、日本からの出張者を連れ、車3台でいつもの「赤い砂漠コース」へ。
赤い砂漠が横たわる景色を十分に堪能してもらった後は、さらに車で土漠の奥に分け入りました。土地が浸食されてできた奇怪な景観を楽しんでもらおうと考えたのです。
進む道は人工的に作られたものではありません。長い年月をかけ、水によって浸食された谷底で、くねくねと曲がり、両側には20メートルほどの崖が切り立っています。
これは砂漠 (土漠) 地帯独特の「ワジ (ワーディ=涸れ川)」で、普段は水が流れておらず、平らで砂利が敷き詰められた感じはなかなか走りやすく、まさに道路。
その日は、珍しく雨が降り出しそうな曇り空でした。若干不安を感じつつも、そんなワジの道を走っていると、案の定、最初の一粒が来ました。
「ああ、雨か」そう思ったのもつかの間、あっという間に、それこそ1、2分で、我々の車列は豪雨に包まれてしまいました。
雹まじりの土砂降りで、ワイパーを使っても前方が真っ白で何も見えません。こんな雨は日本でも経験したことがありませんでした。
先頭車両がハザードランプを出し、ゆっくりとその場に停まりました。5分ほどそのまま様子を見ていると、雨足は急速に衰えてきたため一同ひと安心。
一方で、両側の岩肌からは雨水が勢いよく流れ落ちていました。この時はまだこの先のトラブルをまったく想像していない自分。
気づけば、ワジには一気に水が流れ始め、5cm、10cmと刻一刻、水かさが増してきました。恐怖にかられた我々は、あわてて車を方向転換し、もと来た道をそろりそろりと引き返し始めました。
泥でにごった水が流れているため、地面の状態がまったくわかりません。エンジン下部を岩にこすってしまったらそれこそ立ち往生です。
思うように進めずにいる間も水かさはどんどん増え、深さ20cmくらいの濁流になった時は、ついに車を乗り捨てかと最悪のシナリオが頭をよぎりました。
しかし、ほどなく見覚えのあるカーブにさしかかり、ようやく「助かった」と思いました。そのカーブを曲がると記憶どおり土地が少し高くなっていて、とりあえず水を避けることができました。
しかし、目の前にはまだ急流があります。そして後ろはすでに濁流。前にも後ろにも動けません。
脇の斜面を上って遠くを見てみると、ここさえ抜ければもう水の流れはないようでしたが、水かさが40cmほどあり、我々の車では走れません。川の向こうでは大型トラックがこちらの様子をうかがっていました。
水かさが減るのを待っていましたが、2時間待っても期待したほど水位は下がらず、そうこうしているうちに辺りはだんだん夕闇につつまれてきました。
「もうこうなったら度胸で渡るしかない」そうみんなで覚悟を決めると、順番にワジの濁った急流を横断していきました。どの車も水中の岩にぶつかることがなかったのは、相当ラッキーだったと思います。
そうして無事、帰路につくことができたのでした。それにしても、砂漠で洪水って本当にあるんですね。自分が体験するとは夢にも思いませんでした。
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以上です。なお、リヤドは普段ほとんど雨が降らないので、当時は道路の排水溝もまったくと言っていいほど整備されていませんでした。
なので一旦大雨に降られると、町の低い方にあるエリアは道路が冠水して大変なことになっていました。