自分がサウジアラビアの首都リヤドに住んでいたのはもう15年前になりますが、その頃はまだバレンタインデーは異教徒の破廉恥な習慣という位置づけでした。
2月14日を前にそれっぽい店頭ディスプレイも禁止だし、バラなど赤い花を売り買いするのも違法。(※12月はクリスマスの店頭ディスプレイも禁止でした)
もしかしたら違法ではなかったかもしれませんが、少なくとも宗教警察の取り締まりの対象でした。そもそも男女交際がまったく自由ではありませんでしたからね。
当時はレストランも男性用のシングルルームと女性・家族連れ用のファミリールームに分けられていました。結婚の約束をしていない男女の二人きりデートなんてもってのほか。
大人の職場はもちろんだし (女性と廊下ですれ違うこともない)、小学校のスクールバスでさえ男女別々、完全に「男女7歳にして席を同じうせず」の世界でした。
そんなサウジアラビアでしたが、数年前にはイスラムの聖職者がバレンタインデーを祝うことは違法ではないとの見解 (ファトワ) を出しました。
バレンタインデーはキリスト教の伝統儀式でもないし、ソフトな形で愛情表現を行うことは、平和を愛するイスラム教徒として当然だ、とのこと。
もちろんこれに反発した保守的な市民もたくさんいましたが、今では概ね、季節の風物詩として受け入れられているようです。
ちなみにバレンタインデーをアラビア語で表現すると「イード・アルホッブ」だそうです。イード (Eid) は祭りとか祝宴、ホッブ (Hubb, Hub, Hobb) が愛。
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さて、サウジアラビアはいつの間にか自由の風が吹いていたようです。なんとサウジアラビアの国産ロマンチックムービーの紹介コラムまで見つけました。そんな映画を以下、ご紹介します。
■バラカ・ミーツ・バラカ
マフムード・アルサバーグ監督。2016年、ベルリン映画祭で初めて上映されたサウジアラビアの長編映画で、同年にカイロ国際映画祭のコンペティションでも上映されました。また、Netflixで放映された初のサウジアラビア映画にもなりました。
「バラカ・アラービー」というジェッダ市役所に勤務する貧しい家庭出身の青年が、「バラカ・アルハーリス」というインターネットを騒がすビデオブロガーのワイルドな女性に恋する物語です。敵対的な環境で出会った二人の運命やいかに。
■ノーラ
サウジアラビア人監督兼脚本家タウフィーク・アルザイディによる初の長編映画で、第77回カンヌ映画祭の「ある視点」部門に選出された初のサウジアラビア映画です。
1990年代のサウジアラビア、世界から隔離されたような辺鄙な村に住むノーラは、新任教師のナーディルと出会います。二人はお互い感化し合い、やがてノーラは自分の望みを達成するには、この閉ざされた世界を離れなければならないことに気づくのでした。
■90デイズ
本作はサウジアラビアの家族を取り巻く社会的な問題を、ロマンチックコメディーで描き出した作品です。医師サーラは自分にふさわしい男性を求めて、周囲がすすめる結婚をことごとく拒否してきました。ようやく出会った魅力的な男性ファハドとの結婚を決意しますが、彼には何やら秘密があるようで・・・。二人は90日間引き離され、気持ちを試されるのでした。
■ビデオテープ・チェンジ
マハー・アルサーアーティ監督の本作は、サウジアラビアや中東地域、さらに各国の映画祭で観客から好評を博し、オランダで開催された第5回ロッテルダム・アラブ映画祭では最優秀脚本賞を受賞しました。
1987年のサウジアラビア、肌の黒い青年イヤードが、可憐な少女ミシャールに恋をしますが、自分の肌の色が障害になると考え、当時の有名歌手 (たぶんプリンス、あとMJ) を真似て彼女の愛情を勝ち取ろうとするコメディ仕立ての物語です。
トレーラーを観たら思っていた以上に面白そうでした。どこかで全編観ることはできないものかな。