12月10日は「世界人権デー (Human Rights Day)」ということで、以前書いたヨルダンの過去記事を再録します。古い記述なので、続けて、現状はどうなのか少し書き足しました。
ヨルダン人女性の人権
2001年11月、ヨルダン人権擁護委員会は民事上の女性の権利に関する提言をまとめ、首相府に提出しました。特に、女性の離婚に関する権利については、大幅な改善を要求しました。
シャリーア (イスラム法) では、夫が離婚を希望する場合、妻にその意志を伝えるか、離婚証明書を妻に郵送すれば離婚が成立する一方で、妻が離婚を希望しても、3年から4年の裁判が必要で、かつ離婚が成立しないケースもたくさんあります。
今回の提言では、慰謝料を支払うことによって、妻も離婚する権利を得ることを求めています。その他には、結婚年齢を現在の女性15才、男性16才から、双方とも18才に引き上げるよう提言しています。
しかしこの点は、各州知事にある程度裁量権をもたせることで、女性が乱暴されその犯人と結婚せざるを得なくなる状況 (刑法308条) にも対処できるよう配慮されています。
また、男性が2人目の妻をめとる場合に、夫は事前に1人目の妻に知らせること、そして2人目の妻にはすでに1人妻がいることを伝えなければならないことなども盛り込まれています。同委員会によれば、これらの提言はすべてイスラム法にのっとって作成されたとのこと。
中東では、夫が妻の不倫現場を見てしまった場合、その場で妻を殺害してもある意味当然であると受け止められる風潮があります。これを「Honour Crime (一族の名誉を守るための犯罪)」と呼び、ヨルダンの場合は刑法340条、そしてそれを補足すると解釈できる97、98条によって、このようなケースは夫側に禁固6ヶ月以上1年未満が科せられることになっています。
ヨルダン人権擁護委員会は、年間20から25名の女性が Honour Crime によって殺害され、ほとんどの場合夫には禁固6ヶ月が言い渡されている現状を憂慮し、その是正案を議会に提出しました。
是正案の中では、殺人犯である夫の禁固刑を5年以上7年未満に引き上げること、そして刑法340条を男性だけでなく女性にも適用することを要求しています。以前にもこのような改善策が議会に提言されましたが、当時の内閣が全員男性だったこともあってか、「イスラム社会の女性のモラルを破壊しようとする西側とシオニストの陰謀だ」と一蹴されたそうです。
2002年5月、ヨルダンの新聞に載った記事です。
『バルカ地区警察は Honour Crime により、24歳のマルヤムという女性が殺されたことを発表しました。加害者はマルヤムの兄です。兄の申し立てによれば、マルヤムは夫が仕事のため毎週何日か家を空ける際、妹に男性との情事の場として部屋を使わせていたそうです。妹の妊娠によって家族がこの事実に気がつき「Family Honour (家族の名誉)」のため、兄がマルヤムを殺害するに至りました。妹は現在女性刑務所に収監されていますが、これも彼女の身を守るためだそうです。同種の犯罪では、この年マルヤムはヨルダンで5人目の犠牲者となってしまいました』
* * * (過去記事ここまで)
さて、ヨルダンの現在はどうなっているでしょう。ざっと検索したところ、1年前のレポートがありました。オナークライム (名誉殺人) については、なくなってはいないものの (年間15~20名の犠牲者)、20年前にくらべたら発生件数は減少しているそうです。
2016年にファトワ (イスラム法学者による正しいイスラム法解釈) により、オナークライムはイスラム的価値観に合致しないと宣言されると、翌年、刑法98条が修正され、また、刑法308条 (強姦犯が被害者と結婚した場合、起訴を免れることができる) も取り消されました。
ヨルダン政府はまた、家庭内暴力にさらされている女性の保護施設 (Amneh House) の運営も開始しています。こうした人権問題も、いずれなくなっていくものと信じたいです。(写真はヨルダン人の家族連れでにぎわうウムカイス遺跡)
※過去記事:ヨルダンのイスラーム