A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

いい歯の日、海外歯医者事情(再録)

海外で長く生活していると、歯医者は一番の悩みのタネです。自分の赴任した国の中ではもっとも先進国だったタイであっても (しかも日本人経営の歯医者、ただし医者はタイ人)、コミュニケーションの問題から、歯の詰め物の再装着すらうまくいきませんでした。

その時は、数日前に取れてしまった奥歯の詰め物をそのまま付けてもらうだけでした。ところが、詰め物に接着剤を塗って再装着し、医者から「噛んで」と言われましたが、噛む力の加減がわからず軽く噛んだところ、コンマ何ミリか高いまま固まってしまいました。

何日か我慢したら慣れるかと思っていましたが、結局違和感が取れないままだったので、4ヶ月後に帰国した際に歯医者に行って治しました。このように、海外での歯科治療は、なかなか日本のようにはいきません。

ということで、11月8日「いい歯の日」にちなんで、歯にまつわる過去記事を再録します。

アンマンの歯医者にて

ヨルダンで歯の詰め物がとれてしまった時のこと、さっそく近所の歯医者に出かけました。診療室にはパソコンがあり、小型カメラを使って口の中の画像が映し出されました。

さらにこれから行われる処置について簡単なアニメーションも流れました。こんな歯医者、日本でも行ったことありません。感心することしきりです。

麻酔注射の前に、麻酔をしみこませた脱脂綿を噛むよう言われました。「これでチクリともしないよ」 ドクターは自信ありげです。

そしていよいよ注射のとき、ドクターは急に何か思い出したらしく、看護婦さんに向かって「あれはどうなってる?」と聞きました。

一瞬目をそらしたドクターの手は、ゆっくりと私の頬を直撃しました。歯の治療は全く痛くありませんでしたが、私の頬はしばらくの間しびれていたのでした・・・。

* * *

いわゆる途上国で生活していると、歯医者はもっとも頭の痛い問題です。どの国でも基本は抜歯。詰め物をする時でも相当余分に削り取られてしまいます。

サウジアラビア赴任早々、レストランでフランスパンをかじっていた時に、あまりに堅いパンだったため、前の方の歯が1本、大きくグラリと傾いてしまいました。

激痛と同時に「ヤバイ」と思って歯の位置をグッと押し戻したのですが、その日の夜からその部分の歯茎が、大きな血の塊のようなものでプックリふくれてきました。

翌日、ジンジンと痛みがひどくなっています。仕方なく、近所の歯医者に行きました。女医さんで、国籍はフィリピンです。

歯を見せると「Oh!!」とひと声あげ、女医さんは「抜きましょう」と速攻できり出してきました。

こちらは反論のしようがなく、あとはペンチでゴリゴリと抜かれるのをただ甘んじて受けるしかありませんでした。

長い海外生活の中で、未だに後悔していることのランキングトップです。

サウジで親知らずを抜きました

2週間前、左側の奥歯が上下とも痛くなりました。3日我慢しましたが、結局耐えきれず歯医者へ。診断は、虫歯ではなく親知らずが歯を圧迫しているため痛みを感じるとのこと。レントゲンを見ると、左の上下だけでなく、右上の親知らずもそろそろ横の歯に悪影響を及ぼしそうなポジションにありました。

「3本まとめて抜きましょう」 フィリピン人の女医さんにそう提案されたので、ちょっとびっくりして「私の国 (日本) ではたぶん1本ずつ時間をおいて抜くと思いますけど、どうでしょう?」 とおそるおそる質問をしました。「1度に抜いてしまった方が良いのです」 彼女は自信に満ちた表情できっぱりと言いました。

ただ、その歯医者で一番腕の良い、というかたぶん力仕事担当の医者が予約でいっぱいだったため、10日後のオペを予約しました。結局その日は痛み止め薬の処方箋をもらっただけです。

さて、そして本日、本当に親知らずを3本いっぺんに抜いてきました。担当医は白人男性 (アメリカ人?)。最初から最後まで軽快に話し続けていました。数年前に日本で右下の親知らずを抜いたときは、「なんかゴリゴリやってるなぁ、早く抜かないかな」と思った時にはもうすでに抜かれていたので、痛みも苦痛も全くなく、「さすがは日本の歯医者」と感激しました。さて、サウジアラビアはと言うと・・・。

まずは麻酔注射。日本に比べたら一見してなんか太いし、やはり刺されたときに「ビクッ」とするような痛みが何度もあって、この先の難工事 (?) が大いに予想されました。それと、左にはこれでもかというくらい麻酔を打ったのに、右側は「あれっ?」と思うくらい少なめだったのにも、ますます不安をあおられました。「最初に一番ハードなのをやろう」 医者は軽快にそう言うと、まっすぐその手を左下の親知らずに伸ばしていきました。

まず何度か歯をグリグリした後、どうにも頑丈そうなのか、「よし、砕いて取ろう」とまたも軽やかに言うのですが、それを聞いているこっちはもう泣きそうでした。歯を削る器具が口の中に入り「チュイーン」というこの世で最も聞きたくない音が脳内に響き渡り、歯を削る時独特のニオイが立ちこめます。

削って、砕いて、むしり取る。そんな作業をしばらく続け、時々歯の付け根の辺りにビリッと鋭い痛みを感じながら、ようやく1本目を抜き終わりました。「オーケイ、ガリッ!! (OK, I got it)」とまたまた軽快に言うものですから、こちらはなんだか「チクショー!!」という気持ちになりました。

手早く傷口を糸で縫うと、間をおかず左上に取りかかりました。確かに下の歯よりは手間はかかりませんでしたが、「抜けたかな?」「え、まだ?」「今度こそ抜けた!?」「やっぱりまだ!?」というのが何回か繰り返され、精神的にヘトヘトになりつつありました。

そうして左上もようやく抜けると、いよいよ麻酔に若干の不安が残る右上に取りかかりました。ただでさえ歯医者の麻酔は「すぐ効いてすぐ切れる」印象があります。ここまで来るのにけっこう時間がたっていました。やはり最初の2本に比べ、器具を歯にあてている感触が鮮明に感じ取れます。

「おいおい、麻酔はちゃんと効いているのか!?」とかなり心配になりましたが、最終的には「痛い!」と思ったのはほんの一瞬だけでした (日本では麻酔後は一瞬たりとも痛みは感じないような気もしますが・・・)。

医者の「No more wisdom teeth (もう親知らずは1本もないね)」というにこやかな言葉でオペは完了。正味40分。あぁ、無事で良かった・・・。その後、帰宅して麻酔が切れた後に焼けるような地獄の痛みが待っていましたが、6時間ほどたった現在、痛み止めが効いてきたのか、頬のしびれと疼痛程度におさまっています。

日本に比べたらめちゃめちゃ荒っぽいという印象はありますが、まぁ、これがエチオピア (サウジアラビアの前任国) でなくて良かった、というのが最大の感想です。歯医者なんて所詮痛いものだし、サウジだから「仕方ない、抜こう」と思いましたが、エチオピアだったら「仕方ない、抜くため海外に出よう」と考えますから。

何はともあれ、まずは一件落着。サウジで親知らずを抜いて病院に1泊した人に比べたら、何の問題もなくあっさり終わってしまったという感じです (1泊の人は請求額もすごかったらしい)。とりあえず今は水を飲むのもつらいですが・・・。

ベドウィンの歯ブラシ

毎日の生活におなじみの歯ブラシ。世界各地にその土地特有の歯ブラシがあったりしますが、サウジアラビアでは 「ミスワーク (Miswak)」 が昔から用いられてきました。

これはサウジアラビア、スーダン、エジプト南部など乾燥地域に生える特殊な木 (Arak Tree/Salvadora Persica) の根っこで、茶色い表皮をむいて少し歯で噛むと簡単にほぐれ、いかにもブラシといった見た目になります。口に入れるとハッカのようなややピリッとくる風味があって、なかなかオツな味がします。

ミスワークについてはこれまでに世界各地で研究が行われ、実際に虫歯予防や歯垢を落とす薬効成分が含まれていることがわかっています。WHOが虫歯予防にミスワークの使用を奨励していたり (1986年、2000年)、サウジアラビアでもキングサウド大学の研究グループが調査結果の発表を行うなど、近年ますますその価値が再評価されています。

なんでもミスワークには19の薬効成分があり、歯ブラシに歯磨き粉をつけて使用するのと遜色ない効果が得られるのだとか。歯ブラシと違って奥まで届きやすい形状なのも好ポイント。

サウジアラビアではミスワークをくわえながら出歩く人も多いのですが、カイロやアンマンの町中ではほとんど見かけませんでした。このようなベドウィンの伝統文化もアラビア半島の周辺国ではすたれつつあるのかなと感じたものです。

ミスワークは直径5mm~15mmくらい、長さ15cm前後にカットされて売られています。値段は1本100円しないくらい。太さはお好みのものを。ミスワークは歯をゴシゴシこすったり、単にパクッとくわえていたり、爪楊枝感覚で使われます。

1日使ったら、ブラシ部分を一晩水につけておけば、翌日はまた爽やかな使い心地が復活しているはずです。中にはローズウォーターにつけると良いという人もいます。2~3日使えばさすがにボロボロになってくるので、ナイフで表皮を削って新しい部分を出しますが、柔らかいので簡単に削れます。

ミスワークの効能は他にも口臭予防、消化を助ける、喉の調子を整える、頭痛を和らげる、記憶力を高めるなどなど、いいことずくめのようです。