A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

それは誰のせいでもなく(タラレバの話)

これはインドネシアの首都ジャカルタで暮らしていた頃の話。ある雨の土曜日、ふと思いたちタクシーでPIK (Pantai Indah Kapuk) へ。目指すは「Kamakura」。日本クオリティーの美味しいパンケーキが食べられると評判のお店です。

タクシーの運転手がひとつ手前で高速を降りてしまい、ちょっと時間はかかったものの、無事到着。しかし店内はちょうど満席に。タイミング悪いなと思いつつ、でもさすが人気店だよなと、内心ほくそ笑んでいました。

周辺を散歩してしばらく時間をつぶそうと思ったのですが、まだポツポツと雨が。少し考え、何軒か先にあった「博多一幸舎」で豚骨ラーメンを食べることにしました。

「これから甘いパンケーキを食べようという人が、豚骨ラーメン?」

確かにそうなのですが、家の近くにある一幸舎はハラール (イスラム的にOK) なチキンラーメンしかなく、本来のウリである豚骨ラーメンを食べられるPIKのお店は貴重。一度食べてみたかったので、ちょうどいい機会だなと。

入店して食べ終わるまで約30分、コッテリ濃厚な豚骨ラーメンを堪能した後、ふたたび Kamakura に行くと、入口横の窓際の席に座ることができました。まだほぼ満席です。いいタイミングで戻ってこれたなとニンマリ。

メニューには美味しそうなケーキがたくさんありましたが、やはりパンケーキとコーヒーのセットを頼みました。5分ほどでコーヒーが来たので、カップを手にしてコーヒーの香りをかぐと、鼻の奥に残っていた豚骨の臭いもどこかに消えていきました。

10分、15分と時間が過ぎていきます。コーヒーに口をつけようか迷いましたが、パンケーキと並べて写真を撮りたいなと思いじっと我慢。20分、25分・・・、あれ?遅くない?

30分たったところで、一番奥のキッチンのあたりにいる店員を呼んで、「まだ?」と聞いてみました。店員はあわてる様子もなく「パンケーキね?」と返してきたので、忘れられていたわけではなさそう。これくらいはかかるものなのかな。

そこからの10分は長かったです。耐え切れずにコーヒーは飲んでしまいました。そうしてようやく運ばれてきたパンケーキの味は、さすがのひと言でした。生地の柔らかさ、きめの細かさ、焼きたての温かさ、中までしっかり焼けているのにこのしっとり感。幸せに匂いがあるとしたら、きっとこの香りに違いない。

でも、もしこの40分という待ち時間がデフォルトだとしたら、ちょっと次はないかなあ。コーヒーなしで食べきるのはちょっと辛かったし。(それは豚骨ラーメンでお腹いっぱいだったせいなのでは・・・)

ということで、なんとなくモヤモヤが残ってしまったので、そこから20分ほど歩いて「Rati Rati」へ。ここも日本人パティシエのお店です。人気のロールケーキとまるごとバナナをテイクアウト。時刻はそろそろ夕方5時。いまタクシーに乗れば、日没前には家に着くでしょう。

タクシーで家に直行しようと思ったのですが、ちょうどコーヒー豆を切らしていたことを思い出しました。よし、スタバでコーヒーを買っていこう。さっきコーヒーなしでパンケーキを食べたことを思い出し、そう決めました。家に帰ってロールケーキとまるごとバナナを、コーヒーと一緒にいただく。なんて素敵なアイデア。

家の手前のショッピングモールでタクシーを降りて、そこのスタバに入ってみると、レジ前に6人ほど並んでいました。なんとなくお腹の中では、豚骨とパンケーキが喧嘩を始めているような気もしていて、ちょっとだけ迷いました。

食べ合わせの悪さを反省しつつ、まあでもすぐかと思いそのまま並んでいると、こんな時に限って時間がかかります。インドネシア人よ、なぜ自分の順番が回ってきてから悩むのか。入店時にはオーダーが決まっている派の自分、だんだんイライラ。

気持ちが焦ってくると、いよいよお腹もグルグルしてきました。10分ほどで自分の番になり、即オーダー、そしてコーヒーをゲット。両手にケーキとコーヒーを持ち、そそくさとお店を後にしました。

ここでお腹にはっきりとした兆候が。どうしよう、ちょっとやばいかも。モールのトイレに寄っていくか、いや、でもそうするとコーヒーとロールケーキをトイレの床に置くことになるかも、それは嫌だ・・・。

モールから家まで歩いて2、3分。帰ろう、帰るしかない。そう決断すると、あらためてピッと背筋を伸ばし、お腹 (というかお尻) に力を込め、気持ち足早に歩を進めました。そうしてすぐにアパート着。まずゲートをカードキーで開けます。よし、第一関門クリア。

ここで、アパートの1階にあるジムのトイレに行くという選択肢もありました。しかし、家 (部屋) はもうすぐそこです。エレベーターでわずか数階上がるだけ。なんとか行けるだろう。

1階のホールを抜けてエレベータールームのドアへ。ここもカードキー。1回目、挿して抜くのが早すぎて失敗、空しく赤ランプが点灯。コンマ何秒か呼吸を整え再度カードキー。よし、第二関門クリア。中に入ってエレベーターボタンをプッシュ。間髪入れずエレベーターが開く。よし、行ける!

さっと乗り込みすっとボタンを押す。流れるような動作、のつもりが、あ!ひとつ下の階のボタンを押してしまった!あわてて正しい階を押すも、当然ひとつ余分なストップが。その階でドアが開いた瞬間、閉まれ!閉まれ!と心で叫びつつ「閉」ボタンを連打。たぶん高橋名人より速かった (←古い)。

自分の階でエレベーターのドアが開くやいなや、両肩をドアにぶつけるほどあわてて飛び降りると、もう半泣きで部屋の玄関ドアへ。しかしカードキーが挿さらない。ガツン、ガツン、と2度ほど目測を誤る半狂乱状態。

つい先日観たホラー映画で、ゾンビに追われる主人公が家に逃げ込みたいのに、なかなか鍵が挿さらないというシーンがありましたが、まさにそれ。「なんだよこのベタな演出www」と思いながら観ていましたが、うん、これってありますね、ホント。

このわずか数秒の間に、いったいどれほどの思いが巡ったことでしょう。人は、一瞬の中に永遠を感じることがあるといいます。一瞬が永遠ならば、永遠もまた一瞬なり。すべては儚い夢。下半身に淡いリリース感を覚えながら、これが白昼夢であってほしいと切に願う自分がいました。

・・・シャワーで身体を洗い流したあと、ベッドに横たわり天井を見つめながら、今日という一日をふり返ってみました。何が悪かったのか、どこがいけなかったのか、誰のせいなのか。いや、きっとそれは誰のせいでもなく・・・。

* * *

インドネシア時代、いろいろなことがありましたが、これもまた忘れがたい一日でした。悲劇の結末を迎えた原因は、いったい何だったのでしょう。

いろいろ考えると、まず最初にタクシーが道を間違えなかったら、きっとパンケーキ屋にもすぐに入れたのになと思いました。

お店に入れなかったとしても、もし雨が降っていなかったら、ラーメン屋に入ることはなかったかもしれません。そもそもなんでほぼ横並びにあったのか。

また、もしパンケーキがあと10分早く出ていたら、コーヒーと一緒に食べて満足した心持ちになり、ロールケーキをテイクアウトすることもなかったのではないでしょうか。

ロールケーキを買わなければ、スタバでコーヒーを買うこともなかったでしょう。スタバも、買うまでに10分以上かかったのは誤算でした。

モールのトイレかアパート1階のトイレ、このどちらかで手を打っておけば良かったです。しかしその時、最終目的地の我が家は目と鼻の先でした。逆にもっと早く大波が来ていれば、また違った展開に。

エレベーターのボタンを押し間違えたのと、部屋のドアをなかなか開けられなかったのが、致命傷でした。数秒を争う中で、いや、そんな切羽詰まった状況だからこそ、冷静さを失ってしまった自分でした。

結論、タクシー運転手が悪い。(でいいのか?)