A Dog's World 

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悪魔の名前(防災の日に思う)

※過去記事「アチェ訪問記」から抜粋。2016年にインドネシアで考えたこと。防災の日に思う。関連記事「ニアス島訪問記」もぜひ。

悪魔の名前

映画「The Conjuring 2 (死霊館・エンフィールド事件)」を観ました。1も怖かったですが、2も相当なもの。スナヤンシティーの映画館も終始インドネシア人の悲鳴で騒がしかったです。ネタバレになってしまいますが、最後はとり憑いた悪魔の名前を明らかにすることによって、ついに悪魔との戦いに勝つことができました。

なぜ名前を呼ぶと悪魔が退散してしまうのか。それは、名前を知らないものはこの世に存在しないのと同じだからです。いないものは退治できません。本当の名前を呼ぶことによってその存在が特定され、人は始めて悪魔と対峙することができます。そうなれば悪魔など弱いもの。

映画館を出るとき、ふと、TSUNAMI (津波) が国際語になっていることを思い出しました。2004年のインド洋津波で未曾有の被害を出したアチェでは、人々が津波というものを知らなかったそうです。なぜ知らなかったのか。それは、津波を意味する単語がなかったからです。

アチェからほど近いシムル島も津波に襲われましたが、この島では犠牲者はほぼいませんでした。100年前の大津波(現地語でスモン)で島が壊滅状態になったことが、田植え歌などで現代まで伝承されていたため、シムル島の人々は大地震の次に来るであろう津波のことを知っていて、みんな高台に逃げることができました。シムル島では悪魔(津波)に名前があったのです。

その後、日本語であるツナミが世界に広まりました。これはとても良いことです。ただ、実はインドネシアにも、各地に津波を表す単語は昔からあったようだと、最近聞きました。単語としてはあっても、人々の脳裏から忘れられていたのかもしれません。Smong、Galoro、Ie Beuna、Hilangnya Negeri Elpaputih、Gergasi Dari Laut、Wor、Ae Mesinuka Tanalala。(←ちょっと自信ないですけど)

災害から身を守るためには、まず災害そのものを知らなければ始まりません。でもそれは、津波発生のメカニズムとかそんな難しい話ではなく、津波という単語を知っている、ただそれだけでも、少なからぬ効果があります。アチェでも津波という単語が生きた言葉として残っていたら・・・。今さらながら残念に思います。

【注】実際にはアチェにも古くから「Ie Beuna=イブナー」という津波を表す単語があったそうですが、人々に継承されていなかったようです。