A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

Cracked(タイ映画)

Cracked」は2022年のタイのホラー映画です。タイ・韓国・シンガポール・台湾の合作。脚本や演出にも、タイ映画+αの、いい意味でどぎつい味付けが見受けられます。ホラー映画なのでストーリーの整合性は二の次 (というほど支離滅裂ではありませんが)、とにかく怖がらせるぞという、制作陣の気合いがひしひしと伝わってきました。

* * *

アメリカ人の夫と死別したルジャは、一人娘のレイチェルと一緒にニューヨークで暮らしています。レイチェルは重い眼病を患っており、手術しなければ失明の恐れがあると診断されています。しかし手術費用の捻出ができず、焦燥感に駆られるルジャ。

そんなルジャを、美術商の知人がタイから訪ねてきました。亡くなったルジャの父親は画家で、昔からこの美術商が父親の画を売りさばいてきました。しかしルジャは彼の顔を見るなり、「なぜここがわかったのか」と不快そうな顔をするのでした。

場面は変わってタイへ。美術商はルジャ親子をチェンマイにある彼女の実家に連れてきました。離れのアトリエには2枚の油画が残されています。2枚とも同じエキゾチックな美女が描かれた、情熱的な画でした。

美術商は、この2枚は一度売ったが買い主ファミリーから戻されたこと、一部損傷 (Cracked) があるので修復師である自分の息子に修復させた上でもう一度売りたいこと、そのためルジャの許可がほしいことを、ルジャに伝えました。

売れば数百万バーツになるということで、ルジャにとってはありがたい話のはずですが、彼女は険しい表情のままです。「好きにすればいい」と吐き捨てるように言うと、ルジャはすぐにアトリエを出ていきました。

ルジャの実家は人里離れた山の中にあります。修復と売買が済むまで、美術商の知人である家政婦が、2人の面倒を見ることになりました。がらんとした屋敷の中は、何ともいえない不穏な空気に満ちています。

そしてここから、ホラー映画的な演出が延々続きます。娘のレイチェルには露骨に魔の手が迫り、ルジャもたびたび幻覚に襲われます。現実と悪夢の狭間的な演出と、おどろおどろしいBGMやカメラワークも相まって、終始背中のゾクゾクが止まりません。

しかしストーリーの核心はここから。修復師のティムが、油画に隠された秘密を見つけ出します。キャンバスの塗りつぶされた場所には、なんと別の画が隠されていました。この画の正体はなんなのか。いったい父親は何をしたのか。

悪魔に魅入られたように、激しく追い詰められていくルジャとレイチェル。家政婦とティムは味方なのか。ルジャが消し去りたかった記憶とは。「見えないふりをすれば手が出せない」この呪文が持つ意味とは。ラストは恐ろしさとともに、やるせない悲哀に満ちていました。

* * *

ティムを演じているのが、タイ人にして韓国アイドルグループ "2PM" のメンバー、ニックン (Nichkhun Buck Horvejkul)。タイでも俳優として活躍する人気者です。優男で見るからにいい人そうなので、後半の豹変ぶりは必見。

ルジャを演じたパット (Chayanit Chansangavej) も、ここ数年テレビと映画に出ずっぱりの、期待の若手女優です。さすが、国際資本なのでキャスティングにも気合いが入っているなと。しっかり怖がらせてくれる良作だったので、いつか日本でも観られるようになればいいなと思います。

f:id:ishigaki10:20220301214359j:plain