A Dog's World 

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AI LOVE YOU(タイ映画)

AI LOVE YOU」は2022年2月に配信されたタイのSFロマンチックコメディ映画です (⇒前記事)。主演は青春ラブストーリーの傑作「ファーストラブ」の主演カップル、バイフーン (Pimchanok Luevisadpaibul:Baifern) とマリオ (Mario Maurer)。この2人の10年ぶりの共演というだけでワクワクします。

物語の舞台はそう遠くない未来のバンコク。市内にいくつもある超ハイテクAIビルのひとつで働く "ラナ"(Baifern) に、あろうことか恋をしてしまった、AIである "ドブ"。

ドブはあるトラブルからプログラマーの "ボブ"(Mario) に自らをダウンロードすることになり、図らずも人間の身体を得ました (ボブの意識は消失)。ドブはボブとしてラナに近づき気持ちを伝えようとしますが、もともとボブは女にだらしないチャラ男で、ラナはまったく相手にしません。

ドブ (ボブ) はAIなりのぎこちないアプローチを重ねながら、だんだんラナの心を引き寄せていきます。少しずついい雰囲気になっていき、そうしてついに二人は結ばれるのでした。

つかの間、幸せな時間を過ごす二人でしたが、ふとしたことから、ラナはボブの正体がドブであることに気づいてしまいました。ドブが嘘をついていたことにショックを受けたラナは、彼のもとを去りました。

この時、AIビルの開発企業も、現在のボブの状態に気づいていました。異常事態を解決するため、企業はヒットマンを派遣しボブを拉致、ドブのメモリーをすべて消去する作戦に出ました。拉致寸前、ドブはラナにボイスメッセージを残しました (電話に出てくれなかったので)。

傷心のラナはアパート (これもハイテクAIビル) にもどり、悲しみに暮れていました (ドブからの着信は無視)。しかし友人とのビデオ通話を終え、あらためてドブのメッセージを聞いてみると、自分はまだドブのことが好きなのだと強く思いました。

ラナがアパートのAI "ケーノ" に助けを求めると、ケーノは自身をラナにダウンロード、二人は意識を共有し、彼の救出に向かいました (ついでに武闘プログラムもダウンロードして体得)。バンコクのAIビルはすべてネットワークで繋がっており、実は日頃から高度な会話をしていました。そのためボブの居場所もすぐに特定。

ヒットマンとその一味はなんとかラナ (ケーノ) が倒し、無事ボブは解放されましたが、しかしボブの中のドブはすでに89%消去が進んでいました。それが何を意味するのか、にわかにはわからない二人。ボブも、今の自分がボブなのかドブなのかわからないと言いました。

二人の身体にそれぞれ入り込んだAIが、今後も企業から狙われるであろうことをラナが心配すると、ボブは手にしたアタッシュケース (AIのメモリー初期化装置?) を示しながら、「大丈夫」と言いました。なお、ケーノは二度とAIビルにはもどれないと、他のAIから言われていました (つまりラナの身体から出ていけないということ?)。

1年後、カフェで向き合って座るラナとボブ。「1年たったけれど、これまで以上に愛している」そう言うボブにラナは微笑みかけ、「こんなカップルいないわね」と返しました。お互いふたつの人格 (人間とAI) を持っていたことを懐かしんでいる様子です。二人はドブとケーノに乾杯しました。

ここで終劇となりますが、最後の短い会話から、ボブは人間のボブにもどり、それでも少しだけドブの部分が残っていること (性格はすっかり真面目になった)、ケーノはラナの身体からいなくなったことが推察されます。

個人的な感想としては、とにかくこの二人をまたスクリーンで観ることができたそのことに、まず感激しました。映画の内容は、前半はクスッと笑えるシーンもたくさんあってすごく良かったです。いや、もう少し後ろの方まで面白かったな。二人の演技というか佇まいや表情がもう最高にキュートで。問題は、最後の10分。

いきなりのアクションシーンはまあご愛嬌としても、とにかく展開が急だし物語のまとめ方がごく短いセリフで終わりという、何ともあっさりというか雑というか。設定についても、SFとはいえロマコメだし、そこまで厳密なものはもちろん求めていませんが、さすがにもう少しいろんなことを説明してほしかった。

AIが人間に入る時は数秒なのにAIを消去する時は何十分もかかるの? ラナはケーノと意識を共有できたのになぜボブとドブはできなかったの? ラナ (ケーノ) が救出に向かう際なぜAIビルと会話が続けられたの? そもそもAIは人間のどこに入るの?

これらの疑問点、例えば冒頭で、人間にも小さな通信チップ+メモリー装置が埋め込まれている (それがAIビル企業での採用条件) だとか、ほんの少しでもSFチックな設定を入れておけば、簡単に説明できたと思います。ダウンロード/アップロードの速度差とか、脳内Wi-Fi通信機能とか、AIのバージョン違いとか、メモリー許容量の差とか。まあそんな裏設定があると信じたいですが。

そしてやはりラストです。ドブの一部が残ったボブとはいったい誰なのか。ラナが好きなのはドブなのかボブなのか。結果的にボブの人格が変わってしまったのだとしたら、それはそれで残酷な話です。だったら最初から、ラナ+ケーノと同じくボブも自分の意識を保てる設定にして、ドブの脳内アドバイスを受けながら、人間ボブが心を入れ替えつつ次第にラナを本気で好きになっていくといったストーリーの方が良かったのではないか。

本作を観た人のレビューを読むと、それらの声はほぼ同じです。キャスティングは最高、前半は面白いが後半は・・・、プロットはいいのに脚本が・・・、次回共演作に期待。うん、自分も概ね同意します。

あ、もともとラナもドブに親近感を持っていたのでかろうじてセーフかとは思いますが、ドブがずっとラナを監視カメラで追っていたのは、やはりほぼほぼストーカー行為ですね。。

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ちなみに同じような物語として、以前「her/世界でひとつの彼女」を観ました。こちらは人間が男性 (ホアキン・フェニックス)、AIが女性 (スカーレット・ヨハンソン:声のみ)、恋愛感情は人とAIほぼ同時発生という違いがあります。二人の絆が深まれば深まるほど両者の差異が際立っていき、互いの孤独感・疎外感が増していくという、シリアスでもありコメディでもある展開でした。

最後はAIが進化しすぎて人智を超越し消えてしまうという悲しいエンディング。そこから主人公が一歩踏み出せたのなら希望が持てますが、ラストシーンはビルの屋上ですからね。一歩踏み出すの意味が違うんじゃないかとハラハラしながら観終わったことをおぼえています。

AIに姿を持たせないというチャレンジングな設定も秀逸でした。もちろんスカヨハの素晴らしい声の演技があってこそ成立したのだと思います。ホアキンも孤独や絶望を演じさせたらピカイチですね。演技なのかもともとこういう性格の人なのかわからなくなります。

タイ映画もここまでのレベルになったらすごいなと思う一方、脳天気なタイ映画も大好きな自分がいます。