タイ僧侶の托鉢用ボウルを製作することでその名を知らしめてきたバーン・バット・コミュニティー(Ban Bat Community)。
歴史は200年ほど前にさかのぼると言われ、アユタヤ朝が衰退した時期に彼の地から移住してきた人々とも言われています。
托鉢用のボウルは金属製で、21の工程を踏んで作られたもののみ、正式に使用が許可されていました。つまり、このコミュニティーの独壇場だったわけです。
当時はコミュニティーのほとんどすべての家がボウル製作に携わっていて、一日に20から30のボウルが作られていたそうです。
ところが、1970年代になると政府がボウルの工業生産を許可します。製造数が飛躍的にのびるとともに、コストはぐんと安くなりました。
するとたちまち注文が減り、コミュニティーの生活は困窮し、多くの家がこの仕事を離れていったそうです。今では5つのファミリーが続けるのみ。
狭い路地を進むと、カンカンと金属のボウルを打つ音があちこちから聞こえてきます。作業中の人の前で歩を止めると、写真を撮れと促されました。フレンドリー。
お椀くらいの小さなボウルをひとつ買いました。600バーツ/2100円。職人さんに敬意を評し、値切らず言い値で購入。1日にそう何個も作れるものではないでしょうし。
ワット・サケット(黄金の丘寺院)の南側の交差点で、コミュニティーの人々によるワークショップが行われていました。カンカンカンと軽やかに響く金槌の音。こうした匠の技が、マスプロダクションとはいい意味で住み分けし、これからも継承されていくことを願ってやみません。
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ちなみにこの界隈、なかなか魅力的な町並みです。良さげなカフェとか、トローク・シャンハイ(上海横丁)とか。