A Dog's World 

~海外で暮らす・日々の記録・旅の記憶~   

サウジアラビアの動物・植物

砂漠のトカゲ

サウジアラビア内陸部に生息するトカゲのダッブは、その和名「トゲオアガマ」が示すとおり、頑丈なトゲをまとった極太のしっぽを持っています。これ以上ない凶暴な容姿ですが、意外にも主食は草、しかもパセリのような風味をもつ香草です。そのため肉がおいしく、季節になるとスーク (市場) でもたくさん売られます。

薄暗いスークの一角に積み上げられたかごの中でじっとしているダッブは、いかにも不健康そうでとてもおいしそうとは思えません。シーズンにはやはり自分で野生のダッブを捕まえに行きたいものです。

ダッブ捕りも、コツをつかめば意外に簡単です。巣穴にダッブがいることを確認してから大量の水を流し込み、入り口付近に顔をだしてきたダッブを勢いよくわしづかみにする勇気さえあれば、60cm級の大物を捕まえることも夢ではありません。

ただし巣穴に共生しているサソリには要注意です。だいたい最初にサソリが1~2匹出てくるので、それを取り除いてから巣穴をこっそりのぞき込みます。這い出てくるダッブと目があうとまた奥に引っ込んでしまうので、ここは慎重にいきましょう。なお、水ではなく車の排気ガスを入れるやり方もありますが、これは肉が臭くなるのでおすすめできません。

サウジアラビア人に連れられて、初めてダッブ捕りに行ったその日は、なんと大漁7匹も捕獲に成功。案内人の得意満面な表情は今でも忘れられません。翌日、彼が我が家を訪問し、早速ダッブ料理を作ってくれました。

ダッブの肉は白身でくせがなく、しこしことした食感で噛むたびにおいしさが口に広がります。鶏肉とエビを足して2で割ったようなおいしさは、かつて味わったことのない、とても上品なものでした。

もちろん一番おいしいのはトゲトゲのしっぽです。トマト味ベースの地中海風スープにして煮込んだらまさに絶品、思わずうなってしまう美味しさでした。

ちなみに、エジプトなどアフリカ大陸の砂漠地帯に住むダッブは、虫を食べるので肉に臭みがあり美味しくないと言われました。

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砂漠の女王

サウジアラビアも年によって雨が多かったり少なかったり天候は不安定ですが、全体としては、100年前よりは降雨量が増えているそうです。それは莫大な石油収入をもとに多くの砂漠が緑化された結果、だんだんと気候が穏やかになってきたのだと言う人もいましたが、真偽のほどは定かではありません。

それはさておき、自分がリヤドで暮らした数年間、1月から3月にかけては思っていたよりたくさん雨が降りました。毎年のように「20年ぶりの大雨」とか言われていたように記憶しています。

その年も、比較的雨の多い冬でした。3月下旬、「砂漠の女王」を見に行こうといつもの赤い砂漠に誘われました。「砂漠の女王って何?」といまいち想像がつきませんでしたが、現地につき車を止めてしばらくうろうろしていると、案内してくれた人が「あ!あそこ!」と声を発し突然砂の上を走り出しました。

それが花であることは聞かされていましたが、その人が走っていく方向に花のようなものは見あたりません。なんだかわからないまま一緒について行くと、その人がニコニコしながら「これこれ」と地面を指さしました。

「えっ!?」それを見た瞬間、思わず息を飲みました。一瞬それがなんだか理解できなかったのです。砂の中からニョキッと顔を出したその姿は、これまで持っていた花という概念をちょっと逸脱していました。

花だけがもこもこっと出ていて、葉っぱもないし、とにかくなぜ唐突に砂から生えているのかが不思議でなりませんでした。しかしずっと見ていると確かにきれいだし、逆に神秘的なたたずまいがいろいろなイメージを想起させ、終いにはすっかりこの花のファンになってしまいました。

サウジアラビアの動植物を紹介した英語のガイドブックには、Desert Hyacinthと記されていました。それで小学生の時教室でヒヤシンスの水耕栽培をやったことを思い出しました。その後は毎年同じ場所に出かけましたが、たくさん見られた年とそうでない年と差が激しかったのは、やはり冬季の雨の量が大きく関係していたようです。

実は一度だけ、この花を掘ったことがあります。もし球根があったら家のベランダで育てたいと思ったからです。60cmくらい地面を掘った結果、すぐ横のもうひとつの花とU(ユー)字型でつながっていただけでした。球根とか根っこらしきものもなし。一体どうなってんの?

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砂漠のアヤメ

ある年の3月、「アヤメのお花見に行こう」と誘われました。場所を聞いてみると、以前何度か化石を拾いに行ったところでした。「あそこに植物なんて生えてたかなぁ」とやや疑問に思いながらも、他の人と一緒について行くことにしました。

現場へは、幹線道路を北上しトゥメイルの町で右折、しばらく古い舗装路を走り、さらに車で土漠に入り込んでいきます。がたがた道を走っていると、遠目に大きなダムが見えてきました。もちろん川の水をせき止めているわけではなく、冬季、豪雨になるとしばしば発生する洪水の水を溜めておくためのものでしょう。

その年も1月に大きな雨が続きましたが、ダムの裏側には深さ30cmほどの水が溜まっていました。「これだけ水っ気があればアヤメも生えるのか」と思ったものの、しかしお花見ポイントはそこではありませんでした。ダムの裏手の山を大きく迂回し、小高い丘の上にでると、ようやく眼下に緑色の一帯が見えてきました。

現場に降りてみると、そこには想像をはるかに越える密度でアヤメが群生していました。群生の幅は約15メートル。そこからまるで川のように、アヤメの花畑が100メートル以上延びていました。どうやらアヤメの「川」は地下水脈に沿って生えているようです。

しかし周りにはほとんど何も植物は生えていません。なぜアヤメがこんなに繁茂したのか、なぜアヤメ以外の植物がないのか、謎は深まるばかりでしたが、現場にいた誰もがその可憐なうす紫色の花びらに魅了されていたことは確かです。

太陽が輝く昼下がり、何千ものつぼみがゆるみ、次々と花びらが開いていく様は、それはそれは壮観なものでした。

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砂漠の花畑

冬季の雨量が増えると、サウジ人すら知らなかった現象が起こります。1996年3月、かつてない大雨に襲われたリヤド地区は、近郊の砂漠 (土漠) で奇跡が起こっていました。

それまで、見渡す限り岩石に覆われた荒れ野だったところが、一面黄色い花で覆われた花畑に変わっていたのです。

一体どれだけの年月、花の種はこの時を待ち続けていたのでしょう。自分にとっても、もう何年も見慣れた土漠の風景が一変したことは、素晴らしい驚きでした。

花から花へと蜂が飛びかい、吹き渡る風に花びらが揺れます。地獄転じて天国になる、そんなことを感じつつ、水さえあったら本来の姿はこうなのかと、少しため息が出ました。

ビフォー

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アフター

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トカゲの思い出

サウジアラビア滞在中、味気ない生活に多大な潤いをもたしてくれたダッブ(=トカゲ/トゲオアガマ)

ダッブが突然何匹も我が家にやって来たため、急遽金網の囲いを作りました。これで一安心と、1時間ほど買い物に出かけ帰宅すると、金網の中にいるはずのダッブ(大3匹)が忽然と消えていました。

その時はまさかこんなドテッとしたトカゲが網をよじ上るとは思いもよらず、囲いに屋根はつけていなかったのですが、いなくなってもなお「なぜ消えたのか」としばらく呆然としていました。それから30分、とにかくおっかなびっくりで家の中をあちこち探して回りました。

何しろあの尻尾です。ソファーの下を覗いたとき、いきなりあれを顔にビシッと当てられるんじゃないかとびびりまくり、カーテンをめくるとき、尻尾をグルグル振り回しながらこちらに飛びかかってくるんじゃないかと考えたり。

実際、カーテンの裏を1m以上よじ上っていたのには心底驚きました。逃走したダッブを見つけてからも、それをつかむまで、恐くて恐くて5分くらい悩みました。最後は軍手をして「エイヤッ!」でつかみました。

その後、体温が低いと尻尾攻撃はほとんどしないことが判明してからは、ようやくダッブを平常心でつかめるようになりました。

大きいダッブは当時書いたような結末を迎え、中型は砂漠に逃がし、小型はそれから4年くらい家で飼うことになりました。

しかしダッブは表情が豊かです。近づくと首をもたげてこちらをジロリと睨む仕草。体温が上がると体色が緑から黄金色に変化し、凶暴な表情で威嚇を仕掛けてくる野性味。なにより凶器そのものであるトゲトゲの尻尾は小型でも健在で、いつ見てもほれぼれでした。

ひとりで砂漠に花を見に行ったとき、突然大型のダッブを発見。ダッシュしてまんまと捕まえたときは本当に嬉しかったです。持ち帰って同僚の子供たちに見せてあげた後、また同じ場所に逃がしました。

見た目とは違ってその肉はとても美味しいので、乱獲によって数は減少しているそうです。今度またスーク (市場) で売られているのを見つけたら、できるだけ買って、砂漠に逃がしてあげようと考えています。生息地も知っているので。

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ラクダ市場

リヤドの北の町外れにあるラクダ市場に行ってきました。ずけずけと勝手に写真を撮るわけにもいかないので、とりあえず目についた人に声をかけ、ひとしきりお茶とナツメヤシをごちそうになって談笑した後に、「ところで写真撮っても良い?」と切り出し、パチリと写真を撮った次第です。

たまたま声をかけた人がエチオピア人で、久しぶりにアムハラ語で会話を楽しみました (だいぶつたないですが)。なんだかそこかしこでエチオピア人に会うなぁ。

ラクダ1頭の値段はピンキリですが、エチオピア人のところのラクダで一番高いものは4万リヤル (120万円) すると言っていました。過去には、100万リヤル (3000万円) もの値段がついたラクダもいるそうです。

ラクダの柵に見に行くと、ラクダたちが興味深そうにこちらに近づいてきて、クンクンと匂いをかいできたのがたまらなく可愛かったです。もう全然人間を怖がらないんですね。

ちなみに、アラビア語のジャマルは英語のキャメルの語源になったことから、広く知られているアラビア語のひとつですが、細かく言えば雄ラクダのことです。

雌ラクダはナーカ、単に1匹のラクダならバイール、複数ならイビルです。実際にはあまりジャマル(複数:ジマール)という言い方はされないようで、この時もラクダの群れを指してイビルと言われました。

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砂漠のアヤメ再び

リヤドから150kmほど北にあるトゥメイル村の郊外に、この時期アヤメ (アイリス) が咲き乱れる谷があります。毎年必ず咲くわけではなく、雨が降らない年はほとんど見ることができません。去年は全然ダメでしたが、今年はかなり芽が出ているとの情報が入り、頃合いを見てこの週末に行ってきました。

写真は同じ場所の午後1時半と2時15分。それまでつぼみばかりだったのが45分の間にかなり咲きました。少し角度が違いますが、遠目に見ても全体が緑色から薄紫色に変わったのがわかります。ひとつひとつは小さな花びらですが、群生している様は本当に見応えがありました。

職場のスタッフに聞いてもこの花の正確な名前をみんな知らないのですが、アラビア語でアイリスの直訳はザンバク、でもサウサン (原意は谷に咲く野生のユリ) と言う人もいます。サウサンの方が断然響きがいいですね。ちなみにサウサンはスーザンという名前の語源だそうです。古代エジプトで同様の花が "SSN" と記されていたり、ヘブライ語でも同じです。

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